奄美自然の権利訴訟　最終準備書面　1999.12.20

［トップページへ戻る］

平成七年（行ウ）第一号
行政処分無効確認及び取消請求事件

　　　　準　備　書　面

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　原　告　　環境ネットワーク奄美
　　　 　　　 　　外二二名
　　　 　　被　告　　鹿児島県知事

　平成一一年一二月二〇日

　　　　　　　　　　　　　　　　　　原告ら代理人
　　　弁護士　　藤　　原　　猛　　爾

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　眥　　橋　　隆　　明

　　　　同　　　鎌　　田　　邦　　彦

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　関　　根　　孝　　道

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　中　　島　　清　　治

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　福　　森　　亮　　二

　　　　同　　　山　　田　　隆　　夫
　　　　　　　 　　　　 　外

鹿児島地方裁判所 民事第一部 御　中


（目次）

（第一部）
第一、はじめに
　　　一、本準備書面における主張内容
　　　二、従来の原告等の主張
第二、自然の法的価値とその保護に関する原告等の主張
　　　一、はじめに
　　　二、自然及び自然環境の意義
　　　三、自然及び自然環境の人間的価値
　　　四、人間の尊厳と自然の法的価値
　　　五、自然の法的価値の特殊性
　　　六、自然の価値の法的評価と対話
　　　七、自然の価値と関係性
　　　八、人間と自然及び自然環境の関係性と権利・義務
　　　九、私権の行使と自然の法的価値
　　　一〇、自然ないし自然環境の法的保護のあり方
　　　　　１、環境の保護にかかわる法の目的
　　　　　２、自然及び自然環境のための適正手続き
　　　一一、自然の権利
第三、原告適格に関する原告等の基本的主張
　　　一、行政事件訴訟法九条、三六条の解釈
　　　　　１、行政事件訴訟法と憲法及び裁判所法
　　　　　２、抗告訴訟の原告適格概念
　　　二、環境行政訴訟における原告適格
第四、原告適格に関する学説と判例
　　　一、はじめに
　　　二、学説の動向
　　　三、最高裁判例の動向
　　　　　１、主婦連ジュース不当表示事件
　　　　　　　（最高裁昭和五三年三月一四日判決、民集三二巻二号二一一頁不当表示事件
　　　　　　　　・判例時報八八〇号三頁）
　　　　　２、長沼ナイキ基地事件不当表示事件
　　　　　　　（最高裁昭和五七年九月九日判決、民集三六巻九号一六七九頁
　　　　　　　　・判例時報一〇五四号一六頁）
　　　　　３、伊達火力発電所事件不当表示事件
　　　　　　　（最高裁昭和六〇年一二月一七日判決、判例時報一一七九号五六頁
　　　　　　　　・判例タイムズ五八三号六二頁）
　　　　　４、新潟空港空港運送事業免許事件不当表示事件
　　　　　　　（最高裁平成元年二月一七日判決、民集四三巻二号五六頁
　　　　　　　　・判例時報一三〇六号五頁）
　　　　　５、もんじゅ原子炉事件不当表示事件
　　　　　　　（最高裁平成四年九月二二日判決、民集四六巻六号五七一頁
　　　　　　　　・一〇九〇頁、判例時報一四三七号二九頁、
　　　　　　　　判例タイムズ八〇一号九六頁）
　　　　　　（１）事案と経緯
　　　　　　（２）法律上の利益
　　　　　　（３）法律上保護された利益（生命・身体の安全等）
　　　　　　（４）原告適格を認められる住民の範囲
　　　　　　（５）補充性
　　　　　６、風俗営業地域制限事件・・・パチスロ店と診療所・一号ロのケース
　　　　　　　　最高裁平成六年九月二七日判決（判例時報一五一八号一〇頁）
　　　　　７、都市計画法開発行為許可事件・最高裁平成九年一月二八日判決
　　　　　　　　（民集五一巻一号二五〇頁・判例時報一五九二号三四頁・判例タイムズ九三一号一一七頁）
　　　　　８、風俗営業地域制限事件・・・パチンコ店と住居集合地域の居住者
　　　　　　　　・一号イのケース最高裁平成一〇年一二月一七日判決（判例タイムズ九九一号一一五頁）
　　　四、下級審判例の状況
　　　　　１、津地判昭和六〇年七月一八日（訟務月報三二巻五号一〇三九頁）
　　　　　２、浦和地判平成五年九月六日（判例地方自治一二一号五八頁）
　　　　　３、宮崎地判平成六年五月三〇日（判例地方自治一三〇号三二頁）
　　　　　４、大阪地裁平成六年九月三〇日判決（判例タイムズ八九五号一二〇頁）
　　　　　５、神戸地裁平成七年七月二〇日判決（判例地方自治一四〇号六七頁）
　　　　　６、名古屋高裁平成八年五月一五日判決（判例タイムズ九一六号九七頁）
　　　　　７、名古屋高裁平成八年九月二五日判決（行裁集四七巻九号八四九頁）
　　　　　８、大阪地裁平成八年一二月一八日判決（判例時報一六三〇号四八頁）
　　　　　９、東京高裁平成九年三月二六日判決（判例地方自治一七四号九三頁）
五、その他の判例
　　　　　１、伊場遺跡事件・最高裁平成平元年六月二〇日判決（判例時報一三三四号　二〇一頁、
　　　　　　　判例タイムズ七一五号八四頁）
六、判例の総括
　　　　　１、はじめに
　　　　　２、判例の枠組み
　　　　　３、判例の展開
　　　　　４、判例における「法律上の利益を有する者」の解釈原理
　　　　　５、森林法一〇条の二の保護する個別的利益に関する判例の立場
　　　　　６、まとめ


第五、森林法及びその関連法規の検討
　　　一、はじめに
　　　二、森林法の目的と林地開発行為許可制度の趣旨
　　　　　１、森林の保続培養と森林の機能
　　　　　２、森林の機能と環境の保全
　　　　　３、行政通達における森林法の環境の保全機能
　　　　　４、森林法一〇条の二と目的を共通にする関連法規
　　　　　５、自然環境保全法と森林の環境保全機能
　　　　　６、環境基本法
　　　　　７、生物の多様性の保護に関する条約
　　　　　８、モントリオール・プロセス
　　　　　９、まとめ
　　　三、森林法の保健機能と林地開発許可制度
　　　四、法一〇条の二第二項第三号の保護する個別具体的的利益
　　　　　１、隣地開発行為の侵害する利益と侵害の態様
　　　　　２、森林法の保護する個別具体的利益
　　　　　３、保安林制度との比較
　　　五、法一〇条の二第二項一号、一号の二

第六　本件予定地の自然の状況
　　　一、南西諸島について
　　　　　１、南西諸島の概要
　　　　　２、南西諸島の生物相の特色及び重要性
　　　二、奄美大島について
　　　　　１、奄美大島の概要
　　　　　２、奄美大島の生物相の特色及び重要性
　　　　　３、奄美大島の自然及び野生生物の現状
　　　　　４，奄美のかけがないのない自然の保全
　　　三、龍郷町ゴルフ場予定地（市里原）
　　　　　１、予定地の自然
　　　　　２、予定地の動物の生息状況
　　　　　３、ゴルフ場開発による影響
　　　　　４、原告らの観察行動
　　　四、住用村ゴルフ場予定地
　　　　　１、予定地の概要
　　　　　２、予定地周辺の自然
　　　　　３、予定地周辺の動物の生息状況
　　　　　４、ゴルフ場による影響
　　　　　５、原告らの観察コース
　　　五、原告名を冠した動物について
　　　　　１、アマミノクロウサギ
　　　　　２、オオトラツグミ
　　　　　３、ルリカケス。
　　　　　４、アマミヤマシギ

第七、原告等と奄美の森の関係性
　　　一、原告常田守
　　　二、原告野上貴久子
　　　三、原告高美喜男
　　　四、原告恵沢岩生


（第二部）

第一、環境訴訟における団体の原告適格について
　一、団体の原告適格をめぐる学説と判例
　（一）はじめに
　（二）環境訴訟に関する団体の原告適格とわが国の判例
　（三）諸外国の事情と学説
　　　１　アメリカの裁判例
　　　２　ドイツにおける団体訴訟
　二　団体の原告適格
　　　１　団体の原告適格を必要とする背景
　　　２　団体に原告適格を認めることに対する反対論とその批判
　　　３　団体の原告適格を認める要件
　　　４　団体の原告適格を認める要件
第二　環境ネットワーク奄美の原告適格
　一、原告環境ネットワーク奄美の当事者能力
　　１、環境ネットワーク奄美の設立経過
　２、目的
　３、構成員
　　４、組織
　　５、財政
　　６、活動
　二、環境ネットワーク奄美の原告適格性


（第一部）

第一、はじめに
一、本準備書面における主張内容
原告等は、本準備書面において、被告の平成一〇年　月　日付第六準備書面に反論するとともに、原告適格に関する従来の主張を整理・補足する。本準備書面は二部に分かれる。
本準備書面第一部において、原告等は、主に以下の事項について主張を行う。
１、自然の法的価値とその保護に関する原告等の基本的立場
２、原告等は、行政事件訴訟法九条及び三六条における「法律上の利益を有する者」に該当すること
すなわち、
�）楫鑪喘漏�発許可処分の根拠規定である森林法一〇条の二は、関係者と開発予定地である本件林地（以下、奄美の森という）との個別的な関係性を保護するものであること
�⊃肯嗚＾譟讃鬚瞭鵑蓮�原告等と奄美の森との個別的関係性、すなわち、原告等の奄美の森におけるフィールドワーク、奄美の森との精神的関係性、奄美の森に対する自然保護活動を保護するものであること
本準備書面第二部において、原告等は、以下の事項について主張を行う。
１、環境行政訴訟における環境保護団体の原告適格
２、権利能力なき社団である環境ネットワーク奄美が、行政事件訴訟法九条ないし三六条の「法律上の利益を有する者」に該当すること
以上である。
二、従来の原告等の主張
原告等は、本訴訟を通して、自然の法的価値とその保護について基本的主張を前提に、原告等が本件における二件の林地開発許可処分に関し、本件取消または無効確認の訴えの原告適格を有すること、本件各林地開発許可処分が違法であることを主張してきた。その内容は、すでに提出したすべての原告準備書面に記載したところであるが、平成一〇年七月三日以前に提出した準備書面における主張の概要は、原告等が提出した原告側争点整理案を前提に、御庁から呈示された「事実整理・案（第三版・平成一〇年七月三日現在）」（以下、裁判所事実整理案という）に記載されたとおりである。本準備書面に記載されていない原告等の主張で、裁判所事実整理案呈示前に行ったものは、右整理案の趣旨に則して、ここで再び全主張を援用し、裁判所事実整理案提示後のものは、平成一〇年七月一三日日付準備書面、平成一〇年一〇月一二日付準備書面及び本準備書面に記載したとおりである。原告等は近日中に原告等の全主張を整理した原告側争点整理案を提出する予定である。

第二、自然の法的価値とその保護に関する原告等の主張


一、はじめに
ここで、原告等の自然の法的価値とその保護に関する主張を以下のとおり、要約し、補充する。
二、自然及び自然環境の意義


自然とは、人間をも含んだ世界の展開のプロセス、秩序、軌道、すなわち「時間的・空間的関係性」であり、これを狭義の自然と呼ぶ。
他方、動植物の個体、地域個体群、種、地域生態系、生態環境など客体として自然界を観察した場合に観念しうる「もの」、「構造」を「自然物」と呼び、狭義の自然と併せて広義の自然と呼ぶ。
生物多様性という概念は、これを秩序概念として見る場合は狭義の自然として、客観的に観察しうる生物界のあり方として見る場合は自然物としてとらえる。
他方、自然物のうち、科学的・文化的・精神的意義において人間と関係性を有し、その生存環境として観念しうるものを「自然環境」と呼ぶ。


三、自然及び自然環境の人間的価値
自然及び自然環境は、人間を含めた生物界の進化の基盤であり、自然システムの物理学的安定は人間の生物学的生存の前提である。また、自然及び自然環境は、人間の経済活動の基礎的資源を提供するとともに、一切の精神活動の源泉である。さらに、自然及び自然環境は、人間文明・文化の基礎であり、人間にとって尽きぬ科学的・文化的情報源である。


四、人間の尊厳と自然の法的価値
そもそも、法的価値とは、本来的に社会的価値であり、人間存在との関連における事実を基礎として成立する。自然の法的価値もこのような人間と人間及び人間と自然との関わりを構成する事実として存在する。原告等は、このような人間と人間、人間と自然との関わりのあり方、関わりを形成する事実を総合的に指し示す概念として、関係性という言葉を使用する。
人間の存在は、深く自然に依存する。すべての人間が生物学的存在として生存を続けるうえでも、個体としての人間が統合性をもって実存していくうえでも、人間を自然と分割することはできない。人間は、狭義の自然と一体の存在である。狭義の自然とは、人間の「内」なるものである。
人間の尊厳は、現代世界において、人類の共通・共有の価値であり、近代法の理念的基盤である。人間の尊厳という価値も、科学知のみによっては了解不可能なものであるが、人類が歴史的過程を通して獲得してきた精神性の深化の一端である。
近代法は人間の尊厳を根本的な価値としているが、人間と自然との一体的関係性に鑑みれば、狭義の自然もまた同様の基底的価値を有する。
また、動植物の個体、地域個体群、種も地球生命圏・生態系の構成要素であり、狭義の自然の基底的価値を背景に、原則的に、人間の功利的価値を超えた意義を有し、原則的な保護に値する。なぜなら、個々の自然物が生命圏や生態系というシステムの中でどのような機能を担っているか、また、その進化史上の意義は、現代の科学知をもってしては理解不可能だからである。
自然及び自然環境は、文化的・精神的意義においても、人間の精神的統合の基盤である。自然物のうち、少なくとも現存の社会規範において優先的価値を付与されたもの（環境基本法、種の保存法、文化財保護法などにおいて優先的価値を付与された地域生態系、動物種、地域個体群、生物個体、生物多様性など）については、文化的意義、精神的意義において、原則的に人間個々人に対する基底的価値を有し、優先的保護に値する。
他方、狭義の自然及び自然物は公共的価値を有する。狭義の自然の価値は、地球全体がそうであるのと同様に、何人かに帰属するものではない。それは現在生存する一人一人の人間と将来産まれくるすべての人間個体の存在基盤である。また、自然物も時空を超えた多数の人間と関係を取り結ぶことが可能であり、すべての人間の生存に対し、経済的・精神的意義を持つことが可能である。生態系やその機能を支える自然物は、その空間的・時間的な人間との関係性のあり方故にすべての人間に開かれている。


五、自然の法的価値の特殊性
自然及び自然環境の有する価値は、漠然と不特定多数の人間を受益者とするのではなく、多数ではあっても最終的には具体的な個々の人間に帰属する。狭義の自然は人間の内なるものであり、生態系は人間の生物学的生存基盤としての環境を構成するからである。
自然及び自然環境の法的価値は、原則的に私益を超えた性格を有し、個別的な人間的価値を超えた普遍的性格をもつ。自然及び自然環境はそれがすべての人間の生存基盤、実存の基盤であるという意味において一個人に還元し得ない空間的な、歴史的な広がりをもつからである。
自然及び自然環境という法益の公共性は、国家制度や歴史的限定性を超越した性格を有し、生物学的な個々の人間の生存と社会的生存と直接的に関わりあう。国家的法益とされる国家の存立と安全、国家の審判作用、刑事司法作用、拘禁作用、公務員制度などや社会的法益とされる通貨・有価証券制度、文書・印章制度、風俗などと比較すると自然及び自然環境の公共性のあり方が基本的に異なることに気づく。
さらに、自然及び自然環境の価値は、生命と同様、処分可能性、譲渡可能性、放棄可能性がなく、非独占的、非排他的性格をもつ。個人に関係づけられた自然及び自然環境の法的価値を、私的支配の可能な利益すなわち所有権との類比において理解することは、その本質を見誤る結果となろう。


六、自然の価値の法的評価と対話
ところで、自然及び自然環境の法的価値は、本来的に人間的価値であり、社会的価値であって、人間と自然との関係性をなす事実に基盤をおく。従って、自然の価値は、この事実に即して、討議し、評価し、考量することが可能である。自然及び自然環境の法的価値を評価するに当たっては、憲法規範の価値序列を尺度としつつ、科学知の限界性を念頭におかなければならない。
原告等はファナティックな自然至上主義を主張するものではない。自然の価値が討議可能な性格をもつことを前提とした上で、適正な対話過程おいて保護と利用に関する論議を行おうというのである。自然の価値に関する論議は、多元的価値の許容という民主主義の哲学的核心をないがしろにするものであってはならない。
もっとも、自然の価値を社会的・文化的に評価するにあたっては、現存する法や社会規範が社会の構造的ゆがみを反映していること、また、このような価値は金銭を尺度とした考量になじまないことに留意すべきである。また、科学的因果性の立証が開発行為と破壊の免罪符となってはならない。
自然の価値の評価は、適正な対話過程において行われなければならない。環境問題は、人間の精神的態度の問題であるとともに、人間社会の自己規制の問題であり、さらに、社会構造に起因する問題である。法は、人間活動を規律することにより社会的統制手段としての役割を果たすとともに、共同体における意思決定を行うにあたっての手続き的・実質論的なフレームワークを提供しうる。これが法のフォーラム的機能である。法は、環境問題の領域において、真摯な対話の過程を通して社会的意思の形成を促し、問題解決への方向性を模索する制度的基盤を提供できる。このようなフォーラムにおいては、単に、法における形式的正義のみが問われてはならない。環境問題の社会性を念頭に置きつつ、さまざまな法規範を手がかりに、自然ないし自然物の法的価値を探求すべきである。


七、自然の価値と関係性
自然及び自然環境価値の法的評価にあたってもっとも重要なのは、価値の事実的基盤、すなわち、人間と自然及び自然環境との関係性である。一定地域を保護すべきか、それとも開発を許容すべきかが問われるとき、まず確認すべき事柄は、その地域の自然の特性、生物と非生物が構成するシステムのなりたち、当該地域の生態系が含む自然的・文化的情報、そして人間とその地域との関わりである。右のような事実に則して、人間と自然との関係性を探ることによって、価値の評価過程から社会の構造的ゆがみを排除し、その適正さを確保することが可能となる。
また、具体的個々人と自然及び自然環境の関わりの法的保護という問題領域においても、その個別的な関係性を構成する事実を確認することが不可欠である。ここにおいて関係性とは、当該個人と自然及び自然環境とのかかわりのあり方及びそれらを構成する事実群である。
この関係性の把握に際して、自然物と人間との距離的近接性といった要因は一つの指標となるにすぎない。当該自然物の存在する地域に居住するもののみが保護に値する個別的関係性を有しているのではない。当該地域生態系は当該地域に居住する人々のとってのみ実存の基盤となるのではない。
この関係性の法的評価にあたっては、物的な私的支配の保護とは異なったアプローチが必要である。具体的にいえば、
・当該自然物が狭義の自然の秩序や軌道を保つために持つ意義、役割
・当該自然物の進化史上の意義
・当該自然物が含む科学的・文化的情報
・当該個人と自然物との間の人間的・文化的・精神的関わり
・当該個人が当該自然物に関わる主観的容態、客観的態様（個別的関係性の内容、関係性をもつに至った経緯、当該個人の真摯性、精神性、継続性、非利己性、他益性）
・当該関係性のもつ価値の社会性、歴史的意義（環境保護や生物多様性の保護）に果たす役割
・現存する法規範の当該関係性に対する評価
に注目しなければならない。


八、人間と自然及び自然環境の関係性と権利・義務
自然及び自然環境という法的価値の特性、その存在構造は、人間と自然及び自然環境との関係性の法的保護のあり方を規定する。
自然及び自然環境が実存の基盤であることを思えば、自然及び自然環境の法的価値は、原則的に、個別具体的性をもつと考えるべきである。他方、個別的関係性が所有権等の私的権利を構成することがあっても、それは厳格に公共性に規定されていることに留意すべきである。
人間と自然及び自然環境の関係性を成す事実に法的価値が承認され、その法的価値が個別的契機をもつとき、それらは権利又は法的利益として保護される。伝統的には、生命・身体に関する権利、人格権、所有権がそのような機能を担う権利と考えられてきた。ところが、公害問題を契機として、自然及び自然環境が本来的にシステムを構成し分節不能であること、このようなシステムが個々の人間の生存基盤を成すことが認識されるに至り、人間と環境との関わりのトータルな法的保護が権利レベルにおいて要求されるようになった。これが我が国において環境権が提唱された背景であり、世界的に環境への権利アプローチが提唱された所以である。さらに、自然及び自然環境の公共性に鑑み、所有権的な構成から離れて個人に自然及び自然環境を防衛する権能を承認する必要が意識されるようになった。日本弁護士会連合会が自然享有権を提唱するにいたった理由はここにある。これらの権利は、いずれも人間と自然及び自然環境との個別的関係性を、一定の視点から、一定の範囲で保護しようというのである。
このように人間と自然及び自然環境との関係性は、その関係性を構成する事実が法的要件を充足することにより、所有権、生命・身体にかかる権利など伝統的な権利の保護対象となる。また、環境権、自然享有権、憲法上の人権や国際人権規約上の規約人権の保護対象ともなる。さらには、このような関係性が、行政事件訴訟法九条・三六条の法律上の利益を構成したり、民法七〇九条の保護対象となることもあり得るのである。
他方、国家は自然保護義務を負う。そもそも国家は基本権を保護する義務を負うと解することができる。国家の存在は基本的人権の保障を自己目的とする（憲法九七条、九九条）が、人間が自然と一体の存在であり、自然が人間の内なるものである以上、基本的人権の保障は当然に自然の保護を要求する。ここにおいて自然とは、単に美しい自然の風景地や希少な動植物の種を言うのではない。自然の展開のプロセス、軌道、生態系、生態環境などを意味するのである。また、日本国憲法の保障する自由権は「国家に対し、人格実現のための条件の積極的保障を要求する権利」を含む。自然は、人間の生物学的・精神的生存の条件を為すから、何人も国家に対し、自然を保護することを国家に要求する権利を有する。
さらに、自由権規約二条一項は規約人権の締結国による保護を義務づけているが、自然の保護は人間の実存的価値を保護する義務のうちもっとも基底的なものであるから、国家は国際人権規約によっても、自然保護義務を負うと解すべきである。
人間は、自然及び自然環境の価値を享受する権利を有する。このような人間と自然との関係性が所有権や人格権の保護対象となり、あるいは、環境権や自然享有権の実体的側面をなすのである。また、人間は、その生存基盤である自然をあらゆる侵害から防衛する権利ないし権能を有する。これが自然享有権又は自然防衛権である。これらの自然の人間に対する権利は、憲法一二条、一三条、三一条、九七条によって保障されている。


九、私権の行使と自然の法的価値
日本国憲法は、二九条一項において、「財産権は、これを侵してはならない。」と規定し、同二項は、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように法律でこれを定める。」と規定する。すなわち財産権は原則的に保障されるが、その内容は法律で定められることとする。他方、民法二〇六条は、「所有者ハ法令ノ制限内ニ於テ自由ニ其所有物ヲ使用、収益及ビ処分ヲ為ス権利ヲ有ス」として、物権法定主義の原則をとることを明確にし、同二〇七条は、「土地ノ所有権ハ法令ノ制限内ニ於テ其土地ノ上下ニ及ブ」としている。しかし、わが法が、地域生態系というシステム、生物多様性、科学的・文化的情報、所有権（あるいはその支分権）が成立することを認めたと解釈する根拠はなく、人間の共通の生物学的・精神的生存基盤に所有権などの排他的私的支配権が成立する余地はない。従って、土地の私的な使用、収益が、地域生態系のシステムそのものを破壊し、またはそのおそれのある場合は、権利行使の限界を逸脱し、現在及び将来の多数の人々の自然との関係性を破壊する違法行為と評価すべきである。自然及び自然環境の破壊は、本来、私権と私権との調整という問題ではなく、違法な自然システムの破壊に対する人間的価値の防衛という問題領域にあると考えるべきである。したがって、この領域においては、利益考量は、原則的に排除されるべきである。また、地域生態系の開発の可否に関して、法が行政機関に裁量権を付与している場合には、その裁量は、原則的に開発者とその反対者の私的利益の調整という観点から為されるべきではなく、現在及び将来の国民の立場に立って、地域生態系ないし自然環境との関係性の破壊を、どのような理由で、どのような手続きの下に、どの程度許容できるかという視点から為されるべきである。


一〇、自然ないし自然環境の法的保護のあり方
原告等は、自然及び自然物の法的保護に関する以下のような法的フレームワークを提示する。
１、環境の保護にかかわる法の目的
環境の保護に係わる法は、自然の基底的・公共的価値という認識を前提に、生態系と生物多様性の原則的保護をその目的とすべきであり、そのために適切な方法が選択されるべきである。今日必要とされるのは予防的措置と柔軟な是正措置である。
２、自然及び自然環境のための適正手続き
自然と人間との関係性を保護するために憲法上の「適正手続き」を応用することが可能であり必要である。適正手続きは、科刑手続きとの関連では、告知・聴聞・理由附記の要請、当事者主義、無罪の推定（立証責任の国家負担）、罪刑の均衡、刑罰内容の合理性、刑罰謙抑主義、明確性の原則などを内容とした。しかし、デュープロセスは、今日、人間存在という憲法上の基底的価値を実体面・手続面の双方から保護するとともに、適正な社会的意思形成過程を水路づける憲法規範と評価すべきである。
自然及び自然環境のための適正手続きの具体的内容は以下のとおりである。
�ヽ�発主体及び開発を審査する機関は開発の内容とその影響に関する情報を公開すべきこと
��開発の目的、合理性、必要性、侵害性、開発手続きの適法性に関する司法審査が保障されること
�３�発や利用を企図する主体は、人類に不可欠の価値を有し、その開発や利用が自然の秩序、プロセス、生命圏の基本的機能、生態系、動植物の生息地、動植物の種・地域個体群・個体とその生息地などを侵害しないことを立証する法的責任を原則的に負うこと
�こ�発と保護にかかわる手続過程において、計画段階で当該開発の有する環境への侵害性を確認する制度（アセスメント）が法定され、開発行為の途中及び利用段階に入った後も常に環境への影響を調査する制度が存在すること
�ヅ�該開発行為を中止し、原状に復元するための法制度が存在すること
�ε�事者主義をモデルとする自然の価値を防衛する法的システムが存在し、ナチュラリストや環境ＮＧＯに司法権の発動を促す法的資格が付与されること
�С�発と保護に関する意思決定過程（裁判を含めて）においては、開発謙抑の原則ないし「疑わしきは保護せよ。」という基準を原則的判断基準として採用されるべきこと
これらは立法論としてだけでなく、解釈原理としても採用されるべきである。


一一、自然の権利
原告等の考え方の基盤には以下のような思想が存在する。
自然には、基底的・公共的価値な価値が存在し、人間は、自然と人間の関係性を自らの利益のために、同世代及び将来世代の人々のために防衛する法的権利ないし権能を有する。自然が人間の内なるものであり、人間が自然と一体的関係にあることを思うと、隠喩的な表現として、自然、すなわち人間をも含めた世界の展開のプロセスそれ自身が、このような関係性を防衛する資格をもつと言えよう。法の世界で、この防衛任務を担当するのは、自然を想い、自然をよく知り、自然保護活動に従事する人間個人やＮＧＯである。
原告等は、このような見方を、象徴的意味において、自然の権利と呼ぶ。
当初、原告等が、野生生物の種名を原告に表示したのは、このような自然の権利という思想を前にするものである。


第三、原告適格に関する原告等の基本的主張


一、行政事件訴訟法九条、三六条の解釈
１、行政事件訴訟法と憲法及び裁判所法
行政事件訴訟法九条及び三六条は「法律上の利益を有する者」に限り、行政処分に関する取消訴訟及び無効確認訴訟を提起することができる旨規定しているが、本訴訟が提起している環境訴訟のような授益的行政処分（許可等相手方に利益を付与する授益処分が、処分の相手方以外の一定範囲の第三者にも利害を及ぼす場合の第三者）の「法律上の利益」の解釈に当たっては、次の点を考慮すべきである。
�〃�法三二条は、国民の裁判を受ける権利を保障しているが、本来、同条から、行政訴訟の原告適格を有する者の範囲を「法律上の利益」を有する者に限定するという解釈はでてこない。
�∋碧仝△粒鞠阿蓮峩饌療�な場合に、ある時点における個別的な事実を認定し、これに法を適用することを目的とする作用」と定義されるが、憲法七六条第一項からも、抗告訴訟が主観訴訟であるべきことまでは要求されない。
��裁判所法三条の規定も、抗告訴訟が主観訴訟であるべきことを要求していない。
�ぁ嵋［Ь紊陵�益を有する者」に抗告訴訟の原告適格を認める考え方は、行政事件訴訟法九条、三六条により創設されたものである。
２、抗告訴訟の原告適格概念
抗告訴訟の原告適格概念は、その機能をより合理的なものにするために設けられた政策的実際的な装置であり、無益な訴訟をスクリーンして裁判所及び被告の負担を軽減する機能を有する訴訟法上の概念であって、本案審理の必要のない訴えを整理して、無駄な審理を省くという訴訟経済的な配慮と必要のない訴訟の応訴に煩わされる被告の地位の保護という要請に発している。伝統的な規制的行政処分（下命・禁止の処分、授益処分を取り消す処分）の場合はともかく、授益的行政処分に関する第三者の原告適格の問題は、処分の適法性に関する紛争について、だれを原告にしてその訴訟を追行するのが紛争の解決のために最も適切かという見地から判断されるべきものである。その具体的内容は、当該抗告訴訟の果たすべき役割に応じて具体的、機能的に解釈されるべきである。
そして、当該行政処分の根拠法規が、法益保護の対象として、一定範囲・一定地域の者を想定していることが読み取れる場合には、国民一般・住民一般と区別することが可能である。この区別にあたっては、授益処分につづく事実行為の危険性、事実行為が侵害する利益の性質、内容（個別的関係性の性質・内容）、侵害の蓋然性なども考慮されるべきである。


二、環境行政訴訟における原告適格
環境行政訴訟における原告適格は、本来、私的利益の侵害の有無という観点からのみではなく、防衛者の資格要件という観点から考察する必要がある。また、行政事件訴訟法九条・三六条の原告適格要件である「法律上の利益を有するもの」も本来このような防衛者としての適格性を問題とすべきである。
自然及び自然環境の法的価値は人間にとって基底的、公共的性格を有する。自然及び自然環境の価値は個々の具体的人格に帰属しながら、当該個人が支配・独占できるものではなく、全ての人々に開かれた性格を持つ。環境行政訴訟において「法律上の利益」の有無の判断にあたっては、このような自然及び自然環境の価値の特殊性が考慮されるべきである。
そこで、このような資格には、以下のような要件が必要である。
�‥�該原告が、自然及び自然環境と個別的関係性を有すること
�△修隆愀言�が具体性と客観性をもち、討議可能、評価可能、考量可能な法的価値に係わること
��その関係性が当該行政処分により許認可される行為によって変更・破壊されること
�づ�該行政法規の解釈において当該関係性の保護を読み込むことができること
�ヅ�該行政処分の取消又は無効確認（公定力排除）により当該原告を関係性の破壊から救済することができること
�ε�該個別性関係性の性質・内容、関係性の変更・破壊の蓋然性、当該行政法規の趣旨・目的から原告等を一般人から区別することが可能であること
の六項目である。
　なお、右�い暴劼戮薪�該行政法規の解釈は、目的規定と根拠規定の双方において、関係する憲法・国際人権規約の条項、目的を共通にする条約・法令・行政通達などの関連法規の関係規定の形成する全法体系を参照して合理的に行われるべき必要がある。原告等は法律上保護された利益説を排すべきだ主張するのではない。原告等は、頑迷な法実証主的アプローチに固執する必要は全くないというに過ぎず、国民の権利利益の救済を目的とする抗告訴訟の本質に則って行政法規の合理的解釈・目的論的解釈を行うべきだと主張するのである。
ところで、個別的関係性の内容が生命・身体の権利や財産権を構成する場合は、当該原告は当然に「法律上の利益」をもつことが認められる。
他方、関係性の内容がこのような伝統的な権利の要件事実を直ちに充足しない場合であっても、
・当該自然物が狭義の自然の秩序や軌道を保つために持つ意義、役割
・当該自然物の進化史上の意義
・当該自然物が含む科学的・文化的情報
・当該個人と自然物との間の人間的・文化的・精神的関わり
・当該個人が当該自然物に関わる主観的容態、客観的態様（個別的関係性の内容、関係性をもつに至った経緯、当該個人の真摯性、精神性、継続性、非利己性、他益性）
・当該関係性のもつ価値の社会性、歴史的意義（環境保護や生物多様性の保護）に果たす役割
・現存する法規範の当該関係性に対する評価
から観察して、
�‥�該関係性が原告等の個別的なかかわり、人格的な関与、精神性を基盤とすること
��原告等が当該個別的関係性とともに、自然及び自然環境の有する公共的価値（例えば、生物多様性にかかる代替不可能な科学的・文化的情報）の保護を真摯に企図していること
が認められれば、法律上の利益を有することが認められるべきである。
そもそも、行政事件訴訟法九条は、文理上、「処分又は裁決の取消を求める法律上の利益を有する者」に対して取消訴訟の原告適格を認めているのであって、法律上の利益を侵害された者又は必然的にそのおそれのある者に原告適格を認めているわけではないから、法律上の利益を個人に帰属する実体法上の利益だけに限定する理由はない。また、取消や無効確認訴訟に求める関係性に個人的契機を要求する以上、取消訴訟や無効確認訴訟を客観訴訟化することにはならない。さらに、行政事件訴訟法一〇条一項は、「自己の利益に関係のない違法を理由として取消を求めることはできない」と規定するだけで、自己の利益に関係する違法理由に限定して取消を求めることができるとしているわけではない。その上、原告等の主張に依拠しても、誰でもが行政訴訟を提起できるわけではないから乱訴をまねくおそれもなく、一般人から原告適格を有するものを識別することも十分に可能であって、しかも、公定力排除を目的とする取消訴訟等の本質と矛盾することもない。（問題となる授益処分は、法益侵害の危険性のある事実行為に許認可を与えその危険性を受忍せよという公定力をもつ。この公定力を排除し、国民の権利利益を保護することは抗告訴訟の本質と矛盾しない。）
結局、環境行政訴訟の原告適格における利益の個別性は、処分の根拠となった行政法規が、どのような個別的関係性を抗告訴訟の提起要件としているかという観点から判断すれば十分である。
既に原告等は、本件における個別的関係性を原告等の奄美の森におけるフィールドワーク、奄美の森に対する保護運動、奄美の森との精神的関係性などの視点から分析し、これらの関係性が森林法一〇条の二によって保護されていること、森林法一〇条の二が要求する原告適格として十分であることを、目的を共通にする関連法規の関係規定（すなわち、生物多様性条約・世界自然憲章・リオ宣言・森林原則声明・モントリオールプロセスなどの条約や国際合意、森林法の目的・林地開発許可制度に関連する通達類など）によって形成される法体系に依拠して論証してきた。なお、森林法一〇条の二の解釈については後に詳細に補充する。
ところで、自然の破壊には自然と具体的個人との個別的関係性の破壊と見なすべき領域が存在する。そして、規約人権や憲法上の自由権・社会権などがこれらの関係性の一端を人権として保護しているとものと解される。既に原告等は、憲法二一条、一九条、二三条、国際人権規約・自由権規約一九条二項、同一七条、同一八条、同二条一項、社会権規約一五条等を援用し、原告等と奄美の森との個別的関係性が、これらの人権保障規定によって保護されていることを主張した。


第四、原告適格に関する学説と判例


一、はじめに
被告は、平成一〇年一〇月九日付準備書面（六）において、主婦連ジュース事件・最判昭和五三年三月一四日（民集三二巻二号二一一頁・判例時報八八〇号三頁）、長沼ナイキ基地事件・最判昭和五七年九月九日（民集三六巻九号一六七九頁・判例時報一〇五四号一六頁）、新潟空港空港運送事業免許取消事件・最判平成元年二月一七日（民集四三巻二号五六頁・判例時報一三〇六号五頁）、もんじゅ原子炉事件・最判平成四年九月二二日（民集四六巻六号五七一頁・一〇九〇頁、判例時報一四三七号二九頁、判例タイムズ八〇一号九六頁）、都市計画法開発行為許可事件・最判平成九年一月二八日（民集五一巻一号二五〇頁・判例時報一五九二号三四頁・判例タイムズ九三一号一一七頁）などの最高裁判決や津地判昭和六〇年七月一八日（訟務月報三二巻一〇三九頁）、浦和地判平成五年九月六日（判例地方自治一二一号五八頁）、山岡町事件・名古屋高裁平成八年五月一五日判決（判例タイムズ九一六号九七頁）などを引用し、原告等の主張がこれらの判例と矛盾すると主張する。
そこで、原告等は、原告等の主張がこれら判例と決して矛盾するものではなく、十分整合性を有することを論証する。


二、学説の動向
最初に学説の動向を簡単に振り返っておきたい。行政事件訴訟法九条は、「処分の取消の訴え及び裁決の取消の訴え（以下、取消訴訟という）は当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき、法律上の利益を有する者（中略）に限り、提起することができる。」と規定する。法は、取消訴訟の場合、法律上の利益を有するもののみに原告適格を与える趣旨である。
さて取消訴訟は、民衆訴訟ではなく、主観訴訟であり、個人の権利利益の救済を目的とするとされてきた。そして、当該行政処分によって法律上保護された権利・利益を侵害され、又は、法律上の不利益を課せられたものに原告適格があるとされるのである。
「法律上の利益を有するもの」には二つの類型があるとされる。一つは�々埓�処分の効果として、直接権利を侵害され、義務を課される者であり、他方は、��許可処分を受けたものが行う事実行為によって何らかの不利益を受け、又は受けるおそれのあるものである。前者の例としては、課税処分の名宛人、営業許可や運転免許の取消処分・停止処分の名宛人、法律上の申請を拒否されたもの、事業認定の法律上の効果によって収用を受け入れざるを得ない起業地内の権利者などがある。他方、後者は、授益的行政処分の第三者と言われるが、この場合の原告適格の理解については、法律上保護された利益説と法的保護に値する利益説との対立があった。
本件は、授益的行政処分の第三者の原告適格が問題となっている。従って、原告適格の問題はまさに「法律上の利益を有するもの」の定義にかかわる伝統的な学説の対立点にかかわってくる。
そこで、法律上の利益説と法的保護に値する利益説の対立を簡単に整理する。
まず、両説の内容であるが、法律上保護された利益説は、当該行政処分の根拠法規（つまり処分の権限を行政庁に付与する規定及びその要件を定める規定）が、特定の範囲の個人の権利・利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課している場合に、その権利・利益の帰属主体に原告適格を認める。これに対し、法的保護に値する利益説は、許認可が与えられた事実行為によって、法的救済に値する不利益を受け、又は受けるおそれのあるものに原告適格を認める。
この対立の理論的なポイントは、法律上保護された利益説が取消訴訟を公定力排除訴訟とみなしているのに対し、法的保護に値する利益説は取消訴訟に処分の違法を是正する客観訴訟的要素を加味する点にある。
さらに、両説の解釈手法に関して言えば、法律上保護された利益説が、当該処分の根拠法規の解釈を通じて、「その法規が原告の個別的利益を保護する趣旨で行政権の行使に制約を課しているかどうか」を基準とするのに対し、法的保護に値する利益説は、「許認可を与えられた事実行為によってもたらされる不利益が、法的救済に値するかどうか」を基準とする。
ついで両説に対する評価であるが、法律上保護された利益説に対しては、行政法規が特定個人の権利利益を保護しているかどうかは規定の文言や立法経過を見ても必ずしも明確ではないから、当該行政法規の趣旨を巡り技巧的で相対的な解釈に陥るという批判が為されてきた。これに対し、法的保護に値する利益説に対しては、判断基準が不明確であるとか、取消訴訟を公定力排除訴訟とする理解と矛盾するといった批判が為されている。なお、法的保護に値する利益説は、右の批判に対して、保護に値するかどうかは主観的恣意的に判断するのではなく、法秩序全体を踏まえ客観的規範的に判断するとしている。
判例は、「法律上の利益を有する者」を「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」と定義する。そして、最高裁は、ジュース不当表示事件（最判昭和五三年三月一四日・民集三二巻二号二一一頁）、長沼ナイキ基地事件（最判昭和五七年九月九日（民集三六巻九号一六七九頁）や伊達火力発電所事件（最判昭和六三年一二月一七日・判例時報一一八四号五九頁）などで法律上保護された利益説に立つことを明確している。これは不十分であるにせよ裁判所の判断にできる限り客観的基準を与えて法的安定性を図ろうという趣旨に基づくものであろう。もっとも、判例も行政法規の趣旨の解釈にあたり、救済の必要性が認められる場合には、原告適格をかなり柔軟かつ広範に承認する傾向を見せるようになったと評価されている。
なお、原告等の原告適格についての基本的考え方は既に述べたところである。原告等は、法律上保護された利益説に盲従するものではないが、法的保護に値する利益説に依拠するものでもない。


三、最高裁判例の動向
さて、以下に重要な判例を紹介し、法律上の利益を有する者の解釈手法を分析することにする。
１、主婦連ジュース不当表示事件（最高裁昭和五三年三月一四日判決、民集三二巻二号二一一頁・判例時報八八〇号三頁）
最高裁判所は、最判昭和五三年三月一四日（民集三二巻二号二一一頁・判例時報八八〇号三頁、以下主婦連ジュース不当表示事件最高裁判決という）において、法律上保護された利益説を採用することを明確にした。この事件は、公正取引委員会が、果実飲料等の表示に関する公正競争規約を認定したところ、主婦連合会等が、右認定を景表法一〇条二項一号ないし三号の要件に該当せず違法であると主張して、同法一〇条六項に基づき不服を申し立てたという事案である。公正取引委員会は、この不服申立に対し、主婦連合会等に不服申立の利益がないとして却下したが、主婦連合会等は審決の取消を求めて訴えを提起した。最高裁は、「法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益」であるとし、「景表法の規定により一般の消費者の受ける利益は公正取引委員会による同法の適正な運用によって実現されるべき公益の保護を通じ国民一般が共通してもつにいたる抽象的、平均的、一般的な利益」であり、「公益の保護の結果として生ずる反射的な利益ないし事実上の利益である」として、主婦連合会等の上告を棄却した。最高裁は、この判決によって、裁判所の採用する「法律上保護された利益説」の枠組みを明示し、公益の保護の結果として生ずる反射的利益は法律上保護された利益にあたらないとした。
２、長沼ナイキ基地事件（最高裁昭和五七年九月九日判決、民集三六巻九号一六七九頁・判例時報一〇五四号一六頁）
ついで、最判昭和五七年九月九日（民集三六巻九号一六七九頁・判例時報一〇五四号一六頁、以下、長沼ナイキ基地事件最高裁判決という）は、航空自衛隊の基地設置に反対する住民が、農林水産大臣を被告として、保安林指定解除処分の取消を求めて訴えを提起したケースである。この事件で、最高裁は、森林法の保安林指定解除処分を一般的公益の保護を目的とする処分であるとしながら、�／肯嗚，�「直接の利害関係を有する者」に保安林指定の申請ができるとしていること（森林法二七条一項）、��農水大臣が保安林指定を解除しようとする場合、「直接の利害関係を有する者」に異議意見書の提出や公開の聴聞手続への参加が認められていること（森林法二九条、三〇条、三二条）、�５貎肯嗚，�「直接の利害関係を有する者」に保安林の指定解除・処分に対する訴願と行政訴訟の提起を認めていたことの三点を根拠として、「（森林）法は、森林の存続によって不特定多数者の受ける生活利益のうち一定範囲のものを公益と並んで保護すべき個人の個別的利益」ととらえているとし、直接の利害関係を有する者に原告適格があるとした。
この判決は、「直接の利害関係を有する者」とは、「保安林の伐採による理水機能の低下により洪水の緩和、渇水予防の点において直接に影響を被る一定範囲の地域に居住する者」であるとした。長沼ナイキ基地事件最高裁判決は、ジュース不当表示事件で反射的利益とされたのと同種の利益に「法律上の利益性」を認めたものと評価できる。実際、藤崎裁判官は、その少数意見において、原告等の利益は反射的利益にすぎないとしている。また、この判決は、異議意見書の提出や公開の聴聞手続きへの参加という行政手続上の「参加適格」をもって、実体上の法律上の利益と見なしたと理解できる。さらに、この判決で重要な点は、一般的公益と並んで保護される個別的利益の存在を認めた点である。ともあれ、最高裁は、この判決をもって早くもジュース不当表示事件最高裁判決における「法律上の利益説」の枠組みを緩和し始めた。
３、伊達火力発電所事件（最高裁昭和六〇年一二月一七日判決、判例時報一一七九号五六頁・判例タイムズ五八三号六二頁）
最判昭和六〇年一二月一七日（判例時報一一七九号五六頁・判例タイムズ五八三号六二頁、以下伊達火力発電所事件最高裁判決という）は、北海道知事が、電力会社に対し、旧公有水面埋立法に基づき、火力発電所建設工事にもとなう公有水面埋立免許許可処分を行ったことに対し、漁業権を有する原告等がその取消を求めて提訴したというケースである。最高裁は、「処分の法律効果として自己の権利利益を侵害されまたは必然的に侵害されるおそれのある者に限って、行政処分の原告適格を有する」とし、「処分の法律上の影響を受ける権利利益」とは「行政法規が個人の権利利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障」されるものであるとした。そして、「行政権の行使の制約とは、明文の規定による制約に限られるものではなく、直接明文の規定はなくとも、法律の合理的解釈により当然に導かれる制約を含む」とした。この判決は、結論的には、原告等が公有水面の「周辺」において漁業権を有するに過ぎないとし原告適格を否定した。しかし、この判決が法律上保護された利益の判断に「法律の合理的解釈」という柔軟な解釈手法を採用したことは注目に値する。
４、新潟空港空港運送事業免許事件（最高裁平成元年二月一七日判決、民集四三巻二号五六頁・判例時報一三〇六号五頁）
最判平成元年二月一七日（民集四三巻二号五六頁・判例時報一三〇六号五頁、以下、新潟空港空港運送事業免許事件最高裁判決という）は、運輸大臣が、日本航空（株）に対して新潟ー小松ーソウル間の、全日本空輸（株）に対して新潟ー仙台間の定期航空運送事業免許処分をなしたところ、新潟空港周辺に居住する原告が、右各免許処分は航空法一〇一条一項に違反するとして、取消を訴求したケースである。最高裁は、「当該処分を定めた行政法規が、不特定多数の具体的利益を（中略）一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合」には、その利益も法律上の利益であるとした。そして、その判断にあたっては「当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によって形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護していると位置づけられている」かどうかという基準を採用した。他方、この判決は、航空法の目的である「航空機の航行に起因する障害の防止」（航空法一条）について、航空法が国際民間航空条約の規定並びに同条約の付属書に準拠していることや法改正の経緯から、右目的には航空機の騒音による障害が含まれるとし、関係規定を参照しつつ事業計画が法一〇一条一項三号にいう「経営上及び航空保安上適切なもの」かどうかを審査するには、航空機による騒音障害の有無・程度も考慮すべきであるとした。この判決は、法の目的と根拠法規の二段階にわたる合理的・目的論的解釈を通じて、根拠法規の個別的保護法益を発見している。すなわち、まず、�‐鯡鵑篶�法経緯との関連で法の目的を合理的に解釈し、航空法が騒音の防止をも目的とするとし、このようにして確認された法の目的を前提に、�∈�拠法規を「関係規定によって形成された法体系」との関連でさらに合理的に解釈して、周辺住民の生活環境（崇�蹐機砲箸いλ［Ь紊陵�益を見いだした。また、この判決は、処分の根拠法規が一般的公益と平行して保護する個別的利益があるという考え方を踏襲している。なお、判決は原告適格は認めながらも、結論的には、原告が自己の法律上の利益に関係しない違法を主張したとしている。
５、もんじゅ原子炉事件（最高裁平成四年九月二二日判決、民集四六巻六号五七一頁・一〇九〇頁、判例時報一四三七号二九頁、判例タイムズ八〇一号九六頁）
（１）事案と経緯
最判平成四年九月二二日（民集四六巻六号五七一頁・一〇九〇頁、判例時報一四三七号二九頁、判例タイムズ八〇一号九六頁、以下、もんじゅ原子炉事件最高裁判決という）の概要は次の通りである。動力炉・核燃料開発事業団（以下、動燃という）が、福井県敦賀市に高速増殖炉原子炉もんじゅの建設を予定していたところ、内閣総理大臣が、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律（以下、規制法という）に基づいて原子炉の設置許可処分を行った。これに対し、付近に居住する住民らが、内閣総理大臣を被告として、原子炉設置許可処分の無効確認（行政事件訴訟法三六条）を求めて提訴した。なお、原告等は、動燃を被告とする原子炉の建設・運転の差止訴訟をも提起していた。もんじゅ原子炉事件では、行政事件訴訟法三六条の原告適格要件に関して、�仝狭霤�が本件設置許可処分の後続処分により損害を受ける者であるか、��原告等が無効確認を求める法律上の利益を有するか否か、�Ｊ篏疾�（現在の法律関係に関する訴え・民事差止訴訟によって目的を達成できないか）の三点が問題となった。原審（名古屋高金沢支判平成元年七月一九日、行裁例集四〇巻七号九三八頁）は、原告等が民事差止訴訟とは別に無効確認訴訟をも提起できるとしながら、原子炉から半径二〇キロメートルの範囲内の住民に限って原告適格を認めた。なお、原審が二〇キロメートルの範囲内に限定した合理的根拠は判決中に示されていない。これに対し、原子炉から半径二九キロメートルから五八キロメートルの範囲に居住する住民等と内閣総理大臣がそれぞれ上告した。
（２）法律上の利益
最高裁は、両事件（住民側の上告に関するものが一三〇号事件、総理大臣の上告に関するものが一三一号事件・双方を併せて、もんじゅ原子炉事件判決という）において、原告適格要件のうち「法律上の利益」につき、「当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される」場合には、このような利益も法律上の利益にあたるとしつつ、行政法規が個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むかどうかについては、「当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとする利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである」とした。
そして、周辺住民の原告適格一般について、�ゝ�制法が災害の防止等を目的とすること、�∨‘鷸余魄豺犹姐罅糞蚕囘�能力に関する部分に限る）・四号基準の適用については安全確保を所管とする原子力安全委員会の意見が聞かれること、�１Τ胴罎竜�可基準が設けられた趣旨は原子炉等から「深刻な災害」が万が一にも起こらないようにするためにあること、�じ胸厦Г糧鏗欧�もたらす被害の性質（つまり、右各号の審査に「過誤、欠落があった場合」には重大な事故が起こる可能性があり、原子炉施設に近い住民ほど被害を受ける可能性が高く、「原子炉施設近くに居住する者はその生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受ける者と想定される」）から、右各号は「単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護するにとどまらず、原子炉施設の周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべき趣旨を含む」とした。
ついで、当該住民の居住する地域が災害により直接的かつ重大な被害を受ける地域であるかどうかは、「原子炉の種類、構造、規模等の原子炉に関する具体的な諸条件を考慮に入れた上で」、当該住民の居住地域と原子炉の位置との距離関係を中心に「社会通念に照らし、合理的に判断すべきである」とした。そして、一三〇号事件について、原子炉から半径二九キロメートルから五八キロメートルの範囲内に居住する住民等も原子炉事故から発生する災害により直接的かつ重大な被害を受けると想定される地域内に居住する者であるとした。最高裁は、その理由として、�）楫鏝胸厦Г�研究開発段階にある高速増殖炉であること、��電気出力が二八万キロワットであること、�ＯЭ監發砲�いて毒性の強いプルトニウムの増殖が行われることなどをあげている。
（３）法律上保護された利益（生命・身体の安全等）
もんじゅ原子炉事件判決も、根拠法規が特定個人の個別的利益を保護しているかどうかというアプローチを維持しており、法律上保護された利益説の枠組みを超えるものではない。しかし、処分の結果行われる事実行為によって、事故等の災害が予想され、それによって周辺住民の生命・身体の安全等が害される危険性が想定される場合には、行政法規の趣旨・目的（なお、本判決は根拠法規に限定していない）を合理的に解釈して住民の個別的法益を見いだすという手法を示したものである。実際、規制法二四条一項三号・四号の文言自体から（なお、四号には災害の防止という文言がある）、周辺住民の生命・身体の安全という個別的利益が保護されていると解釈するにはかなりの飛躍がある。判決は、�），量榲�ー�⊇菠�に関連する手続規定ー��根拠法規の文言ー�せ�実行為から生ずる危険性ー�ズ匈家�生の蓋然性ー��侵害される法益（利益の内容・性質）ー�Ш�拠法規の趣旨・目的ー�┨埓�法規の保護法益という解釈経路を辿っている。これは、一見、トートロジーのようにも見えるが、�い�ら�┐硫當�は最高裁が行政法規の解釈にあたり「原子炉の危険性ー事故発生の蓋然性ー生命・身体への重大な危害」という事実連関を基礎として保護法益を探るという姿勢をとったことを意味する。すなわち、最高裁は、�擬�益処分に基づく事実行為がどのような危険性をもち、どのような法益侵害（個別的法益）の蓋然性をもつかを判断した上で、�凝�該行政法規にその法益を保護する趣旨が読み込めるかどうかを確認するという手法を採用したのである。このような方法は、すでに新潟空港事件判決にも認められ、また、後述する都市計画法に関する最判平成九年一月二八日にも継承されている。
他方、原子炉設置許可処分の保護法益として、もんじゅ原子炉事件決は生命・身体の安全をあげる。原子炉事故との関連で言えば、生命・身体の安全とは、生物圏システムにおいて、人間が自然環境に依存しながらその生物学的生存を安定的に維持している状態であり、最高裁はそのような人間と生存環境との関係性を規制法の保護法益と解釈した理解できる。生命・身体という法益も抽象的・観念的に虚空に浮いているわけではなく、環境との関わりという存在論的基盤を前提としてはじめて理解が可能なのである。
なお、もんじゅ原子炉事件判決も新潟空港事件の場合も、長沼ナイキ事件の場合とは異なって、根拠法規に周辺住民の参加手続が定められていたわけではない。この点も注意すべきであろう。
（４）原告適格を認められる住民の範囲
ついで、もんじゅ原子炉事件判決は保護される周辺住民の範囲について、「事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定」される範囲という基準を設定する。もっとも、判決は発生が想定される事故の内容、事故発生の蓋然性、事故による被害の内容、それによる住民の生命・身体の危険性、その因果的系列について、科学的な検討を行っているわけではない。本判決は、法律上の利益を有する住民の範囲を線引きするにあたり、距離的近接性という要因を中心に、社会通念に照らした合理的判断を行おうというのである。「社会通念に照らして」という言い方は、原子炉から遠く離れた地域に居住する者には法律上の利益を認めがたいことを含意しているのであろう。
ところで判決が、直接的かつ重大な被害という基準を設定した根拠は明確ではない。判決文を読む限り、重大な事故が起きた場合には原子炉施設に近い住民ほどその生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けことが想定されること、つまり、被害の性質を根拠としているようである。この考え方は新潟空港空港運送事業免許事件判決の場合にも認められる。すなわち、新潟空港空港運送事業免許事件判決は、航空機騒音による障碍の程度は「居住地域が離着陸路に接近するに連れて増大するものである」ことなどを考慮して、「飛行場の周辺に居住し（中略）当該飛行場を使用する各種航空機の騒音の程度、当該飛行場の一日の離着陸回数、離着陸の時間帯等からして（中略）航空機の騒音によって社会通念上著しい障碍を受けることとなる者」に原告適格を認めるとした。翻って考えれば、規制法が、距離的近接性との関連で、生命・身体に直接的かつ重大な被害を受ける住民だけの安全を一般公益とは別に個別的利益として保護しているとする解釈は文理的にも論理的にも説得力がない。住民側の上告理由書は原子炉重大事故として、燃料溶融事故・出力暴走事故などの反応度事故、一次冷却系配管破断事故、蒸気発生器破断事故を指摘していた。そして、右上告理由書は、原子炉災害が、環境に放出される放射性物質の放射線に被爆することによって引き起こされるという特質を有し、晩発性障害、遺伝的障害をもとなうこと、つまり、身体に対する障害が世代を越えて広がる可能性のあることを指摘していた。そして、「直撃」の範囲が半径二〇キロメートルを超えないという科学的根拠はないと原判決を批判したのである。この批判は上告審判決の線引き基準にも妥当する。このような「被害の性質」に鑑みれば、直接的かつ重大という基準は原子炉施設との距離的関係を画する基準としてはあまりに曖昧である。また、距離的近接性が被害の深刻さと必ずしもリンクするわけではから、原子炉近くに居住する住民に限定して原告適格を認める必要もない。行政事件訴訟法三六条の解釈として、法律上保護された者の範囲を特定する必要があるとしても、それを規制法の解釈だけから導くことは困難であり、ここに法律上保護された利益説の限界が現れている。
なお、本件の原告はすべて住民であったが、原子炉付近の施設に通勤している人々など自己の生存環境が原子炉に近接する場合には、事故時に直接的かつ重大な被害を受ける蓋然性が高い。本判決の基準を前提としても、このような人々には法律上の利益を認めることになろう。
（５）補充性
もんじゅ原子炉事件判決はともに、原告等の民事訴訟は、行訴法三六条の当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えに該当せず、本件無効確認訴訟と比較して本件紛争を解決するための争訟形態としてより直截的かつ適切なもの言えないとして、本件訴訟が補充性の要件を欠くことはないとしている。
６、風俗営業地域制限事件・・・パチスロ店と診療所・一号ロのケース
最高裁平成六年九月二七日判決（判例時報一五一八号一〇頁）
最判平成六年九月二七日（判例時報一五一八号一〇頁、以下風俗営業地域制限事件１最高裁判決というという）は、神奈川県公安委員会がパチスロ店の営業許可を行ったところ、原告が自己が開業している耳鼻咽喉科の診療所から三〇メートル以内であるのに営業許可が為されたとして、公安委員会に対し、営業許可の取消を訴求したという事案に関するものである。風俗営業等の規制及び業務の適性化等に関する法律（以下、風俗営業法という）は善良な風俗と清浄な環境を保持することなどを目的として営業地域の制限などを定め（一条）、公安員会による営業許可制度を採用し（三条一項）、同四条二項二号は、風俗営業の不許可事由として、政令（風俗営業等の規制及び業務の適性化等に関する法律施行令、以下、法施行令という）で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあることを挙げている。法施行令六条は、右地域基準として、「住居が多数集合しており、住居以外の用途に供される土地が少ない地域」（一号イ）と「その他の地域のうち、学校その他の施設で特にその周辺における良好な風俗環境を保全する必要がある施設として都道府県条例で定めるものの周辺の地域」（一号ロ）をあげ、一号ロについて当該施設の周囲おおむね一〇〇メートル以内とする（二号）。昭和五九年神奈川県条例第四四号（以下、単に神奈川施行条例という）三条一項三号は、右一号ロを受けて、商業地域内では、診療所等の敷地三〇メートル以内の地域を制限地域としていた。
本判決は、まず、風俗営業法四条二項二号、法律施行令六条二号、神奈川県施行条例三条一項三号は、「診療所等の施設につき善良で崇�蹐粉超�の下で円滑な業務を運営する利益をも保護している」とし、診療所等の施設設置者の個別的利益を保護していることを認める。ところで、本件では、診療所はパチスロ店から三〇メートルをわずかに超える距離にあったのであるが、最高裁は、パチスロ店が制限地域内にあるかどうかは実体審理しなければ判明できない程度の至近距離にあるから、原告適格の審査は本案と同一の審理をせざるを得ず、審理の結果パチスロ店が制限地域内にないことが明らかになったとしても、「審理は既に本案の判断をするに熟しているのであるから（中略）訴えの却下の訴訟判決をするのではなく、本案につき請求棄却の判決をするのが訴訟の実際にかなう」とした。園部裁判官は、補足意見において、訴訟実務上、法律上保護された利益と反射的利益との区別が困難であることを指摘し、行政事件訴訟法九条の定める「法律上の利益」には、「法律上保護された実体上の利益の有無について実体審理に基づく本案の判断を求める手続き上の利益を含めることができる」としている。
この判決は、法律上保護された利益には、純然たる実体上の利益だけでなく、原告適格の審査のために実体審理を求めるという手続き上の利益がふくまれることを認めたものと理解できる。
７、都市計画法開発行為許可事件・最高裁平成九年一月二八日判決（民集五一巻一号二五〇頁・判例時報一五九二号三四頁・判例タイムズ九三一号一一七頁）
最判平成九年一月二八日（民集五一巻一号二五〇頁・判例時報一五九二号三四頁・判例タイムズ九三一号一一七頁、以下、都市計画法開発許可事件最高裁判決という）は、川崎市長が為した都市計画法二九条の開発行為の許可に対し、開発区域に近接する地域に居住する住民である原告等が、その取消を求めた事案に関する。この判決は、行政事件訴訟法九条の法律上の利益を有する者の解釈にあたり、もんじゅ原子炉事件上告審事件判決と全く同一の枠組みを採用している。すなわち、行政法規が個々人の個別的利益をも保護する趣旨を含むかどうかは、行政法規の趣旨・目的、利益の内容・性質を考慮して判断するという。本判決は、都市計画法三三条一項七号は、「がけ崩れのおそれのない良好な都市環境の保持・形成を図るとともに、がけ崩れ等による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域内外の一定範囲の地域の住民の生命・身体の安全等を、個々人の個別的利益としても保護」する趣旨を含むという。その理由として、�‥垰垠弉菲〇飴鮎魄豺犲傾罎膨蠅瓩覲�発基準（開発区域内の土地が、地盤の軟弱な土地、がけ崩れ又は出水のおそれが多い土地などであるときは、地盤の改良、擁壁の設置等安全上必要な措置が講ぜられるように設計が定められていること）は、「安全上必要な措置を講じないままに開発行為を行うときは（中略）がけ崩れ等の災害が発生して、人の生命、身体の安全等が害されるおそれがある」から災害防止のために開発行為の設計内容を審査する趣旨であること、�△�け崩れの被害は、「開発区域内のみならず開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に直接及ぶことが予想される」こと、�Ｅ垰垠弉菲〇飴鮎鯑鷙爐楼貍鮗傾罎隆霆爐鯏�用するについて必要な技術的細目を政令で定めることとし、都市計画法施行令二八条、同施行規則二三条・二七条が設けられていることの三点をあげている。そして、法律上の利益を有する者の範囲につき、「がけ崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者」とし、結論として原告適格を肯定した。
この判決も、最初に、�ゝ�可処分ー��開発行為ー��がけ崩れ等の災害の発生ー�ぐ貭衄楼呂傍鐔擦垢訖佑悗隆躋欧箸い�事実連関を確認し、開発行為により居住者の生命・身体の安全という法益が侵害される危険性を指摘する。その上で、都市計画法三三条一項七号に住民の生命・身体の安全等を保護する趣旨が読み込めるかどうか検討するという二段階の手法が採られている。また、法律上保護された利益を有する住民の範囲の線引きについて、がけ崩れ等の災害の内容、災害発生の可能性、被害が及ぶ範囲、生命・身体への危害が及ぶ蓋然性などについて工学的検討を経ることなく、社会通念を基礎に無秩序な開発行為の危険性、住民の生命・身体に災害が及ぶ可能性などに着目して判断している。これらは新潟空港事件、もんじゅ原子炉事件各上告審判決以降採用されてきた解釈方法である。これらの判決を見ると、法律上の利益を有する者の範囲の基準とすべきは、危険との距離的近接性ではなく、予想される被侵害法益の性質と侵害の態様に照らした法益侵害の蓋然性であろう。
なお、本判決は、都市計画法三三条一項一四号（権利者の同意）については、個別的利益を保護する趣旨ではないとしている。
８、風俗営業地域制限事件・・・パチンコ店と住居集合地域の居住者・一号イのケース最高裁平成一〇年一二月一七日判決（判例タイムズ九九一号一一五頁）
最判平成一〇年一二月一七日（判例タイムズ九九一号一一五頁、以下、風俗営業地域制限事件２最高裁判決という）は、東京都公安委員会が、パチンコ店の営業許可を為したところ、パチンコ店の建物から一〇〇メートル以内に居住する近隣の住民が、東京都公安委員会に対し、営業許可の取消を訴めた事案である。
本件の判決も、行政事件訴訟法九条の法律上の利益を有する者の意義・範囲につき、もんじゅ原子炉事件、都市計画法開発行為許可事件上告審判決と同一の枠組みを採用する。しかし、昭和五九年東京都条例第一二八号（以下、東京都法施行条例という）三条一項一号は、地域に居住する住民の個別的利益を保護する趣旨を含まないとして、原告適格を否定した。本判決はその理由を以下のとおり説明する。すなわち、�”�俗営業法一条の目的規定から、「法の風俗営業の許可に関する規定が一般的公益の保護に加えて個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むことを読み取ることは、困難である」こと、��同四条二項二号は、「良好な風俗環境の保全という公益的な見地から制限地域の指定を行うものと解され（中略）営業制限地域の居住者個々人の個別的利益を保護することを目的としているものとは解し難い」こと、�Ｋ〇楾堽疣讃魄豺罐躓擇啼鷙罎蓮�特定施設に注目し、その設置者の有する個別的利益を特に保護する趣旨と解され、これを受けた東京都法施行条三条一項二号は「同号所定の施設につき善良で静穏な環境の下で円滑に業務をするという利益を保護している」が、法施行令六条一号イは「一定の広がりのある地域の良好な風俗環境を一般的に保護しようとしていることが明らか」であり、同号ロのような個別的利益の保護をうかがわせる文言は見あたらないこと、�ど�俗営業法四条二項二号にいう「良好な風俗環境」の中で生活する利益は「専ら公益の面から保護するとしてもその性質にそぐわないとはいえないこと」の四点である。
本判決は、パチンコ店の開業が周辺の風俗環境にどのような変化をもたらすか、それが住居集合地域の生活環境にどのような影響を及ぼすか、それが住民の生活上の利益や人格上の利益にどのような被害を与えるかという事実連関に注目せず、表面的な文理解釈に終始しており、この点で、新潟空港空港運送事業免許事件、もんじゅ原子炉事件、都市計画法開発行為許可事と異なった枠組みを採用したというべきであろう。この判決が、法施行令一号イを一号ロとを別異に解釈する理由としてあげるのは、法施行令六条一号ロが特定施設に注目し同二号がおおよそ一〇〇メートル以内という距離基準を設けているのに対し、一号イは一定の広がりのある地域を想定している点であるが、このような些末な文言と条文構成の相違を理由に異なった結論を導くのはあまりにも技巧的で本質をわきまえぬ議論である。人が良好な風俗環境の中で生活することの法的価値は、人格権ないし所有権の支分権として権利性・利益性を有し、風俗営業法はこのような権利法益と密接にかかわっているのでるから、その保護法益性が原則的に承認されるべきである。さらに、法規の趣旨、個別的利益の性質、事実行為の侵害性、利益侵害発生の蓋然性からアプローチすれば、原告適格の範囲を画する基準を設定することも解釈上十分に可能だったはずである。
このような裁判例から、最高裁は、災害の防止を目的に含む行政法規において、処分に続く事実行為により事故等の発生が予想され、周辺住民等の生命・身体の安全が害される危険性がある場合に、直接的に被害を受ける蓋然性のある人々に原告適格を認める傾向にあることが指摘されている。しかし、侵害が予想される法益に応じて解釈手法を変え、生命・身体の安全以外の法益の場合には文理解釈で足りるとするのは疑問がある。本来、法益は人間と人間、人間と事象との関係性に基礎を置くものであり、また、すべての法的価値は、実存する人間との関連において価値ある事実として存在する。当該処分に基づく事実行為がどのようにその関係性を破壊するかを事実に即して確認し、これに法的価値判断を与えることは、原告適格の有無を判断するにあたり避けて通れない過程である。このように考えれば、最高裁の解釈手法はすべての法益に通用力をもち、またすべての法益に適用すべきである。授益的行政処分の第三者の原告適格の判断にあたって、法律上保護された利益説を採用するとしても、新潟空港空港運送事業免許事件ーもんじゅ原子炉事件ー都市計画法開発行為許可事件において確立された二段階の解釈手法、つまり、�技�実行為の危険性と法益侵害（個人的契機を有する法益の侵害）の蓋然性という事実連関を基礎として、侵害が予想される法益を確認し、�兇修慮鎚姪�法益を行政法規の保護法益と解釈できるかどうか判断するというアプローチを堅持すべきである。
もとより、法益によって、人間にとっての切実さ、価値の重みに差のあることは否定できない。しかし、抗告訴訟が主観訴訟であり、違法な公権力の行使から個人の権利利益を救済することを本質とするのであれば、当該処分に基づく事実行為が個人にとって価値ある事実をどのように変更・破壊するかを確認することは司法にとって必須の作業である。さらに、その価値の評価は、あくまで最高法規範である憲法を基準として為されるべきであり、その過程が検証可能なあり方で開示されるべきである。

四、下級審判例の状況
１、津地判昭和六〇年七月一八日（訟務月報三二巻五号一〇三九頁）
本件は、森林法一〇条の二の林地開発行為許可処分と三重県知事の定める砂防指定地管理規則に基づく作業許可処分に関して、隣接する山林の土地所有権者が行政事件訴訟法三六条に基づき無効確認を求めた事案である。
本判決は、�　岾�発行為許可制度は、（森林法）一〇条の二第二項、第三項に照らして考えると同法の目的とする森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意しつつ、当該開発行為の対象となる森林が現に有している公益的機能、すなわち、土地に関する災害防止の機能、水源の涵養に関する機能及び環境の保全に関する機能を維持増進することを目的としており、個々人の個別的利益を越えた抽象的・一般的な公益保護を目的とした制度と考えられること」、�∧欅体喟�度の場合は、直接の利害関係を有する者が農林水産大臣に保安林の指定又は指定解除の申請や（森林法二七条一項）、意見書を提出して異議を申し出ることができる（森林法三二条）ことを規定し「公益と並んで個々人の個別的利益をも保護していると解されるのに対し、開発行為許可制度においてはそのような個別的利益保護の規定が置かれていないこと」を理由に「開発行為許可制度は個々人の個別的利益を保護する趣旨のものではないと解すべきである。」とした。
２、浦和地判平成五年九月六日（判例地方自治一二一号五八頁）
本判決は、ゴルフ場開発に関して為された都市計画法二九条に基づく土地開発行為許可処分と森林法一〇条の二第二項に基づく林地開発行為許可処分に対し、周辺住民が各処分の取消を求めたものである。
本判決は、森林法は、一条において、同法の目的を「森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資すること」と規定しているのであり、「これからすれば同法が個人の権利乃至具体的利益を直接保護するものでないことは明らかである。」とした。
そして、森林法は一〇条の二第二項各号にいう「地域」に関係する者の権利ないし具体的利益をも直接保護しているのではないかという疑問が生じる余地もないではないとしながら、「同条はその第五項においては条件は森林の現に有する公益的機能を維持するために必要最小限のものに限り、かつその許可を受けた者に不当な義務を課することとなるものであってはならないと規定して、同条の許可が公益的観点からされるべきものであることを明らかにしている」こと、保安林制度は、直接の利害関係を有する者に保安林の指定又は指定解除申請（森林法二七条一項）、や異議意見書の提出（森林法三二条）といった制度を規定しており、一般的公益と並んで個々人の個別的利益保護の規定がおかれているが、林地開発行為許可制度については、そのような個別的利益保護の規定がおかれていないことを根拠として、森林法一〇条の二は個々人の個別的利益を保護するものではないとしている。
１及び２の判決は、主に林地開発行為許可制度が保安林制度制度と異なり、利害関係を有するものの参加手続きを規定していないことをもって、個別的利益の保護を目的とするものではないとしている。しかし、参加手続の存在が、個別的利益を保護するものと解釈する手がかりにはなり得ても、その不存在が直ちに個別的利益の保護を否定する理由とはなり得ない（なお、名古屋高判平成八年九月二四日・行裁集四七巻九号八四九頁参照）。また、保安林制度と林地開発行為許可制度とは森林の土地の適正な利用という共通の目的を有する制度であり、その保護する個別的利益に関しても別異に解釈する理由はない（なお、名古屋高判平成八年五月一五日・判例タイムズ九一六号九参照七頁）。その後の判例の展開をみても、これらの判決は今日では通用力をもたないと考えるべきである。
３、宮崎地判平成六年五月三〇日（判例地方自治一三〇号三二頁）
本件は、宮崎市郊外の大規模リゾート公園施設「シーガイア」に関するものであり、宮崎県知事職務代行者が行った森林法三四条二項の形質変更行為の許可処分に対し、周辺住民が右許可処分は森林法三四条五項に違反し、保安林指定目的の達成に支障を及ぼすとして取消を求めた事案である。
本判決は、「森林法三四条二項の保安林における形質変更行為の許可処分については、保安林の指定又は解除についてのような、直接の利害関係を有する者についての意見書の提出や公開の聴聞手続への参加を認める規定は存在しない。しかし、同法三四条二項が、保安林においては都道府県知事の許可を受けなければ形質変更行為をしてはならないと規定し、法三四条五項が、右許可の申請があったときは、その申請にかかる行為がその保安林の指定の目的の達成に支障を及ぼすと認められる場合を除き、これを許可しなければならないと規定している趣旨は、保安林における形質変更行為を原則的に禁止することによって、当該保安林の指定の目的の達成を図ろうとしたものであると解される」とした。
そして、「保安林の指定の目的は、一般的公益及び当該保安林の指定又は解除に直接の利害関係を有する者の個別的利益を保護することにあるから、結局、法三四条二項及び五項は形質変更行為を原則的に禁止することによって、保安林の指定によって守られた利益、すなわち一般的公益及び当該保安林の指定又は解除に直接の利害関係を有する者の個別的利益の保護の達成を図ろうとするものと解される。従って、法三四条二項及び五項は、ある保安林の指定又は解除に直接の利害関係を有する者の個別的利益を保護しているものといえる」とした。
ついで、「本件解除予定保安林の指定によって個別的利益を守られているのは、本件解除予定保安林の指定又は解除に直接の利害関係を有する者、すなわち、本件解除予定保安林が直接防備の対象としている者に限られる」とし、「具体的にいかなるものが右の要件に該当するかの判断に当たっては、本件保安林及びこれと一体をなす他の森林の面積、形状、位置関係と、原告らの居住地（原告らは、原告適格を有する根拠として生命、身体、財産権に対する侵害のおそれを主張しており、財産権の侵害のおそれのみを主張している者はいないから、原告らにつき原告適格の有無を判断するについては、その居住地を基準とすれば足りる）の海岸線又は本件保安林の陸側の林縁からの距離関係、本件保安林又は原告らの居住地の周辺の地形や土地利用状況、過去の主要な災害とその被害状況を基礎として、社会通念に照らして合理的に判断すべき」とし、潮害を直接受けるおそれのある者に原告適格を認めた。
本判決は、保安林の指定又は解除の場合にように直接利害関係を有する者の参加手続きがない森林法三四条二項の形質変更行為の許可処分について、解除予定保安林が直接防備の対象としている者に原告適格があることを認めている。また、本判決は、当該行政法規（森林法三四条二項及び五項）がどのような個別的利益を保護しているかを確認し、その上で当該処分に基づく事実行為により右個別的利益に侵害を受ける蓋然性を、森林の面積・形状・位置関係・居住地と海岸線又は保安林との距離関係、周辺部の地形、災害の歴史などの事実関係に基づき、社会通念に照らして判断するという手法に依っている。
４、大阪地裁平成六年九月三〇日判決（判例タイムズ八九五号一二〇頁）
本件は、砂防地内の果樹園造成工事（原告はこれを宅地化または墓地化の脱法的な工事と主張していた。）に関し、大阪府知事から権限の委任を受けた土木事務所長が砂防法二条、四条等に基づき、これを許可したところ、周辺住民らがその取消を求めた事案である。
本判決は、砂防法二条、四条、同法施行規定三条は、「災害防止を図ることを目的とした一般的公益保護の見地からの規制であると同時に」、「砂防指定地での土砂の流出や崩壊、地滑り、出水等により一定の範囲の近接地域住民に災害が及ぶのを防止することによって、それら住民の生命、健康、財産等を個々人の個別的利益として保護することをも目的とした規制である」とした。
そして、「砂防指定地内での砂防法四条一項により禁止若しくは制限された行為による土砂の流出や崩壊、地滑り、出水等により直接的かつ重大な被害を受けることが想定されるような近接地域に居住する住民は、砂防指定地内行為の許可処分の取消を求める原告適格を有する」とし、申請地の地形や原告らの居住地との位置関係を確認した上、原告らに砂防指定地内行為の許可処分の取消をもとめる原告適格を認めた。
本判決は、まず、�ゝ涎梗价呂諒�壊による災害の防止に関する法律を、同法一条が急傾斜地の崩壊による災害から国民の生命を保護することを目的としていることを根拠に、同法が一定の範囲の個々人の生命を個別的利益として保護することを目的とする法律であるととらえ、ついで、��同法一二条一項の都道府県の防止工事の施工にかかる規定が砂防法二条の指定のある土地には適用されないことから（急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律一二条二項）、砂防法二条等が住民の生命、健康、財産等を個々人の個別的利益として保護する趣旨であると結論付けており、迂遠な解釈手法を採用してはいるが、やはり、砂防地域内での制限行為のもつ生命・身体・財産への危険性を重視し、侵害の蓋然性を基準として原告適格を判断する趣旨であろう。
５、神戸地裁平成七年七月二〇日決定（判例地方自治一四〇号六七頁）
本件は、大型マンション建設のための開発行為に関し、兵庫県阪神県民局長が都市計画法二九条に基づく開発行為の許可を、兵庫県農林事務所長が森林法一〇条の二に基づく開発行為の許可処分を行った。これに対して、付近の住民が取消訴訟を提起していたところ、阪神・淡路大震災を契機に、住民が本件各処分の執行停止を申めたという事案である。
本決定は、森林法一〇条の二の開発許可処分について、以下のように説示する。
すなわち、森林法は、同法一条からみて、一般的公益の保護を目的としていると解されるが、一〇条の二第二項の各規定からみると、「同法は土砂の流出又は崩壊などの災害により被害を受けるおそれのある周辺の地域に関係する者の具体的利益を、一般的公益としてのみではなく、個々人の個別的利益としても保護する趣旨をも含むと解する余地がある」とし、本件開発区域が南向きの傾斜地であり、申立人らの居住地区が本件開発区域の南西側に隣接していることから、申立適格がないとまでは言えないとした。
本決定は、森林法一〇条の二が、災害との関連で「周辺の地域に関係する者」の個別的利益を保護していることを認め、事実に基づき開発行為の危険性と被害を受ける蓋然性を確認した上、申立適格を認めたものである。なお、この決定は、個別的利益が保護されていると解釈できる人々の範囲について、周辺の地域に「関係」する者とし、周辺居住者に限定した表現を用いていない点に注目すべきである。
６、名古屋高裁平成八年五月一五日判決（判例タイムズ九一六号九七頁）
本件は、原告等が夙に引用していた山岡町事件控訴審判決である。
岐阜県恵那郡山岡町において計画されたゴルフ場に関し、岐阜県知事が森林法一〇条の二に基づく林地開発行為許可処分を行ったことに対し、�）楫鏗�発区域内の土地に入会権を有している者、�∨楫鏗�発区域の近隣に居住している者、�Ｋ楫鏗�発地域の下流に居住し、建物付近に設置してある井戸や居住地域内の井戸から湧出する自然水を飲用等の生活用水として利用している者、�に楫鏗�発区域を水源とする河川から取水して農業を営んでいる者、�ニ楫鏗�発区域内に立木を所有している者などが、その取消を求めた事案である。
原判決（岐阜地判平成七年三月二二日・判例地方自治一四一号三九頁）は、�／肯嗚＾貍鬚�らは、同法が個人の権利あるいは具体的利益を直接保護することを目的とするものとは読みとれないこと、�⊃肯嗚＾譟讃鬚瞭鵑砲弔い董�第三項ないし第五項の規定は「同条の許可が公益的観点からなされるべきものであることを明らかにしている」とし、開発許可制度は森林の現に有する公益的機能の確保を図ることを目的とするものであると考えるのが相当であること、�Ｊ欅体喟�度と異なり参加手続き規定がないとして、森林法一〇条の二は、個人の個別的利益を保護するものではないことを根拠に原告適格を否定し、訴えを却下した。
これに対し、控訴審判決は、森林法は、一条（目的）、一〇条の二から見て、一般的公益の保護を目的とするとしながら、一〇条の二第二項が開発行為許可の基準を定めている趣旨は「当該森林の有する災害防止、水害防止、水源かん養及び環境保全の各機能からみて、当該開発行為によって周辺地域又は森林の有する右諸機能に依存する地域（以下、周辺地域等という。）に土砂の流出若しくは崩壊その他の災害又は水害を発生させたり、水の確保の著しい支障又は環境の著しい悪化が生じるおそれがありうることから、これらの被害を受けるおそれのある範囲の周辺地域等の公衆の生命、身体、財産及び環境上の利益を一般的公益として保護しようとするとともに、それにとどまらず、周辺地域等に居住し又は財産を有し開発行為がもたらす災害等の被害を受けることが想定される範囲の関係者の生命、身体、財産及び環境上の個々人の個別的利益をも保護しようとする趣旨を含んでいるとする解するのが相当である。」とした。
さらに、保安林の制度との差異について、一〇条の二の開発行為許可制度については異議意見書の提出や公開の聴聞手続きへの参加といった規定を置いていないが、「保安林の指定又は解除の場合と開発行為許可の場合とは被害の性質などについては同等に考えることも可能である」とした。
そして、控訴人等の本件開発地域との関連性、つまり本件開発地域との関係性を事実に基づいて認定したうえ、「本件開発行為区域内の土砂の流出若しくは崩壊その他の災害又は水害を発生させたり、水の確保の著しい支障又は環境の著しい悪化を生ずるおそれがあり、その場合、控訴人らはその生命、身体、財産を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがある」とし、控訴人らは行政事件訴訟法九条所定の法律上の利益を有する者に該当するとした。
本判決は、まず、森林法一〇条の二の林地開発許可制度が、個人の個別的利益を保護していることを認めた点に意義がある。ついで、本判決は、環境上の利益が林地開発許可制度の保護する個別的利益となることを認めた。森林法一〇条の二の保護する個別的利益を、災害との関連での生命・身体・財産権の安全に限定せず、森林の伐採が周辺住民の生活環境をいかに破壊するかを事実に即して確認し、森林の下流域において地下から浄水を享受するという人格的・経済的利益（清らかな自然水を井戸から汲み上げて飲用等に供するという下流域の生活者の利益は、物質的・金銭的な利益にとどまらず、明らかに人格的価値に係わる利益をも含んでいる）をも森林法一〇条の二の保護する個別的利益と解したのである。さらに、本判決は、法律上の利益を有する者の範囲について、「被害を受けることが想定される範囲の関係者」という基準を採用し、一定地域内の居住者や一定地域内に財産を所有する者に限定せず、被害を受ける蓋然性を直裁にメルクマールとしたものである。
７、名古屋高裁平成八年九月二五日判決（行裁集四七巻九号八四九頁）
本件は建設省中部地方建設局長が、中部電力に対し、天竜川にある泰阜ダムに関して、水利使用許可処分（実質的には従前の水利許可期間の延長ないし更新）を為したことに対し、上流の飯田市に農地を所有する人々が、本件ダムの存続によって天竜川の河床が上昇し、農地等が洪水被害を被るおそれがあるとして、その取消を求めた事案である。
本判決は、「河川法二三条、二四条の規定には、当該処分によって起こりうる洪水被害から周辺住民を保護する目的が明示的に掲げれているわけではないが、関連法令を総合して考察すれば、そのような災害を被るおそれのある者に対し、その発生防止についての具体的個別的利益を保護せんとする趣旨を十分に読みとることができる」とた。また、河川法は、三五条、三六条以外に、「その過程において、周辺住民の関与を許し、あるいはその意思を反映させるべき何らの規定もおいていない。しかしながら、そのような手続規定は、さまざまな趣旨、目的から設けられるものであって、これが存在しないからといって事後的救済方法ともいうべき抗告訴訟の原告適格を一般的に否定するものではないと解するのが相当である。」とした。
本件の原判決である名古屋地判平成七年一月三〇日（判例時報一五四九号二七頁）は、河川法二三条、二四条自体は許可処分の要件、基準を明示していないが、法一条が定める法の目的（これには洪水等の災害の防止が記載されている）から法二三条、二四条の基づく水利利用許可処分も、この法の目的に準拠して行われねばならないこと、法一三条一項は河川に設置される工作物は安全な構造のものでなければならないと定め、同条二項に基づき河川管理施設等構造令がその技術的基準を定めていることなどから見て、法二三条、二四条に基づく水利使用許可処分をするに当たっては、当該水利利用やダムの設置によって「洪水等の災害の発生のおそれがないかということも考慮しなければならない」とし、「水利使用にかかる事業によって洪水災害を被るおそれのある者は、河川周辺の一定の地域的範囲に居住するか財産を有する者にほぼ限定され、その被る損害の内容は財産権に対するものの他、生命、身体に対するものであることもある」とし、「当該水利使用に係る事業によって洪水災害が発生するおそれのある地域に居住し又は財産を有する者は、法二三条、二四条に基づき水利使用許可処分の取消を求める原告適格を有する」としていた。
原判決は、洪水歴等を参考に過去の洪水被害の発生又は被害の拡大には天竜川の河床上昇が影響しているとし、原告等は泰阜ダムが原因となって洪水災害を被る地域に財産を所有しているとした。つまり、原判決は、事実に基づき当該事業がどのように個別的利益を侵害するか、そして、その侵害の蓋然性を丁寧に確認しているのである。その上で、法の目的規定を合理的に解釈して、根拠規定の個別的利益を読み込むという解釈手法を採用したうえ、第三者を関与させる手続き規定がなくとも行政法規が個別的利益を保護していると解釈できる場合があることを認めたものである。控訴審判決も原判決の趣意を延長し、同趣旨の判断を行っている。
８、大阪地裁平成八年一二月一八日判決（判例時報一六三〇号四八頁）
本件は、ゴルフ場開発に関連して、大阪府知事が行った森林法一〇条の二の林地開発行為許可、砂防指定地内の行為の許可、宅地造成等規制法八条に基づく宅地造成工事の許可の各処分に対し、周辺住民等が取消を求めたものである。
本判決は、森林法は一〇条の二に基づく林地開発行為許可処分について、森林法一条（目的）・四条（全国森林計画）・五条（地域森林計画）の各規定、�⇔喘漏�発行為許可制度において許可には森林の現に有する公益的機能を維持するために必要最小限のものに限り条件を附することができるとしていること（森林法一〇条の二第五項）から、開発行為許可処分は森林の保続培養と森林生産力の増進という公共の利益の保護を目的とするものと解されるとした。さらに、�　嵜肯嗚＾譟讃鬚瞭鸞萋鷙牋豺罅�一号の二が単なる一般的、抽象的な災害の防止にとどまらず、「当該森林の現に有する土地に関する災害又は水害の防止の機能」からみて「当該森林の周辺地域又は当該森林が現に有する水害防止の機能に依存する地域」という具体的に特定された地域における災害の防止を林地開発の許可要件とする旨定めていること」、�◆岷Φ�可要件の審査ｕ�裃rがあった場合には土砂の流出又は崩壊、水害等の災害が生じる可能性があり、一度これら災害が発生したときには、当該森林に近接する住民であればあるほど被害を受ける蓋然性が高く、しかも、その程度はより直接的かつ重大なものとなり、とりわけ、当該森林の近くに居住する者はその生命、身体等にさえかかる直接的かつ重大な被害を受けることになるものと想定されること」などを併せ考えると、森林法一〇条の二第二項一号、一号の二は、「単に公衆の生命、身体の安全等を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、当該森林の周辺に居住し、右災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解するのが相当である」とした。
他方、二五条一項一号等の規定と一〇条の二第二項一号、一号の二の規定を比較してみると、「両者はいずれも森林周辺の一定範囲における災害の防止を保護法益としている」のであって、「後者においても前者同様、このような災害による直接かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の利益を個別的利益として保護する趣旨を含む」とした。そして、森林法及び森林組合合併助成法の一部を改正する法律の施行について〔開発行為の許可制及び伐採の届出制関係〕昭和四九年林野企第八二号各都道府県知事宛農林事務次官通達を引用しながら、林地開発行為許可制度は、保安林以外の森林であっても国民生活の安定と地域社会の健全な発展に少なからぬ役割を有していることから、これらの役割を阻害しないように保安林制度との連携を図りつつ、森林の土地の適正な利用を確保することを目的として定められたものであるとし、保安林制度と趣旨、目的を共通にするものとした。
しかし、一〇条の二第二項第三号は、「単に「環境を著しく悪化させるおそれがあること」を規定するにすぎず、これによって周辺住民が享受する利益は具体性に乏しいものであるといわざるを得ない」とし、また、「同条一項、同法施行令二条の二の二によると、林地開発行為の許可は一定規模以上の開発行為について必要とされているのであって、「良好な環境」という利益の性質に鑑みると、かかる広範囲にわたる開発行為によって右利益を侵害される住民の範囲を特定、個別化することは困難であるから、同号が住民個々の人の個別的利益を保護する趣旨を含むものと解することはできない。」とした。
そして、「本件林地開発行為許可申請の許可要件適合性に関する審査に過誤があった場合に、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害により直接的かつ重大な被害を受ける者と想定される地域に居住している」一部の周辺住民に原告適格を認めた。
本判決も、森林法一〇条の二が、災害との関連で、周辺住民の個別的利益を保護していることを認めたものである。なお、本判決は、一〇条の二環境上の利益については個別的利益であることを否定している。もっとも、本件においては、原告側が、災害に関連した生命、身体、財産の安全以外に環境上の個別的利益を具体的に主張しておらず、この判示部分は全くの傍論であって先例的意義はない。環境上の利益であっても、当該森林と原告との関わり、利益の内容と性質、被害を受ける蓋然性などから個別的利益を有する人々の範囲を画することは十分に可能であり、法律上の利益を有する者の範囲を周辺住民に限定する必要は全くない。周辺住民はもとより、開発区域から遠く離れて居住するものであっても、当該開発地域に客観的・具体的関係性をもち、森林の伐採によりこの関係性が破壊される場合、原告適格を認めるべきである。
９、東京高裁平成九年三月二六日判決（判例地方自治一七四号九三頁）
さらに、建築基準法に関する事案で、東京高裁は、隣地斜線制限を定める建築基準法五六条一項二号の規定の目的は、当該建築物の近隣の土地の上空を地表面に対する一定の角度の範囲内において開放することにより、近隣地の日照、採光、通風を確保することにあると解される。したがって、当該建築物の近隣で生活する者の右のような個別的な利益も、右規定による保護の対象とされているものというべきであるとしている。

五、その他の判例
１、伊場遺跡事件・最高裁平成平元年六月二〇日判決（判例時報一三三四号二〇一頁、判例タイムズ七一五号八四頁）
この事件は、いわゆる伊場遺跡事件といわれるケースである。静岡県教育委員会が昭和三六年静岡県条例二三号（以下、静岡県文化財保護条例という）三〇条一項に基づいて為した伊場遺跡の遺跡指定解除処分に対し、右遺跡を研究してきた考古学者らが、その取消を求めたという事案であった。
本件では、考古学者等は、憲法一三条、二五条を根拠に、文化財享有権を主張し、この権利を「文化財を糧とする精神文化の恵沢において国家の施策を積極的に求める社会的基本権」と定義した。他方、原判決が行政事件訴訟法九条に関し、法的利益救済説を採用したことを批判し、文化財行政の特質に根ざした原告適格論を展開し、学術研究者らの文化財保護法、文化財保護条例上の地位を詳細に分析したうえ、考古学者が処分を争う最適格者であることを主張した。
これに対して、最高裁は、�（顕什盖�有権なる観念は、未だに法律上の具体的権利とは認められないとし、また、�∧顕什睚欷酲＾貍髻�二九条、三〇条の規定並びに静岡県文化財条例等の規定中に県民あるいは国民が史跡等の文化財の保存・活用から受ける利益をそれら個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を明記しているものはなく、また右各規定の合理的解釈によっても、そのような趣旨を導くことはできないとし、さらに、��静岡県文化財条例及び文化財保護法において文化財の学術研究者の学問研究上の利益の保護について特段の配慮をしていると解しうる規定を見いだすことはできないから、学術研究者の学問研究上の利益を、一般の県民あるいは国民が文化財の保存・活用から受ける利益を越えて保護しようとする趣旨を認めることはできないとした。
本判決は、新潟空港航空運送事業免許取消事件最高裁判決やもんじゅ原子炉事件最高裁判決以前のものであって、考古学者らに文化財享有権が認められるかどうかを中心に論議が為されており、�＾篝彁慊蟆鮟�処分によって、考古学者学者らがどのような関係性ないし個別的利益を侵害されるか、�△修陵�益の保護を静岡県文化財保護条例や文化財保護法に目的規定等の合理的解釈を通じて読み込むことができるのかといった点が確認されていない。既述のように、最高裁の解釈手法はもんじゅ原子炉事件以降変更されており、本判決の先例的意義は乏しい。
原告等は、法律上保護された利益説を前提にしても、なお、原告適格があると主張するものであり、また、権利主張に拘泥するものではないことに留意されたい。

六、判例の総括
１、はじめに
ここで、行政事件訴訟法における原告適格に関する判例の動向を総括するとともに、環境行政訴訟に関する原告の立場を再確認しておきたい。
２、判例の枠組み
判例は、行政事件訴訟法九条ないし三六条における「法律上の利益を有する者」を「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのあるもの」と定義する。そして、主婦連ジュース不当表示事件最高裁判決以降、「当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むかどうか」を原則的判断基準としてきた。
判例は、公益に吸収される一般的・反射的利益と具体的個別的利益とを区分するという枠組みを維持してきた。しかし、一般的・反射的利益と具体的個別的利益とは、いずれも明確に定義されることはなかった。そして、どのような場合に当該行政法規が個別的利益を保護しているかという問題をめぐって判例が蓄積されてきたのである。
３、判例の展開
まず、最高裁判決についてであるが、長沼ナイキ基地事件最高裁判決は、公益と並んで保護すべき個人の個別的利益の存在を認め、当該行政法規が直接の利害関係を有する者に参加手続き（異議意見書の提出、公開の聴聞手続きへの参加）を設けていることを手がかりに判断した。
伊達火力発電所事件最高裁判決は、行政法規が個人の権利利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を加えているかどうかについて、直接明文の規定はなくとも法律の合理的解釈により当然に導かれる制約を含むとした。
新潟空港空港運送事業免許事件最高裁判決は、行政法規が個人の個別的利益を保護する趣旨を含むかどうかは、当該行政法規及びこれと目的を共通にする関連法規の関連規定によって形成される法体系に照らして判断すべきであるとし、行政法規の目的規定と根拠規定の二段階にわたる合理的・目的論的解釈を通じて個別的利益を見いだした。
もんじゅ原子炉事件最高裁判決は、行政法規が個人の個別的利益を保護する趣旨を含むかどうかは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質から、判断すべきであるとし、
�擬�益処分に基づく事実行為がどのような危険性をもち、どのような法　　益侵害（個別的法益）の蓋然性をもつかを判断した上で、
　�凝�該行政法規にその法益を保護する趣旨が読み込めるかどうかを確認　　するという手法を採用した。
風俗営業地域制限事件１最高裁判決は、園部裁判官の補足意見が示すように、個別的利益には、純粋な実体法上の利益だけではなく、法律上保護された実体上の利益の有無について実体審理に基づく本案の判断を求める手続き上の利益も含まれるとした。
都市計画法開発行為許可事件最高裁判決は、もんじゅ原子炉事件最高裁判決と同じ解釈手法を継承した。
ついで、下級審判決については、宮崎地判平成六年五月三〇日（判例地方自治一三〇号三二頁）は、利害関係を有する者の参加手続きがない森林法三四条二項の形質変更行為の許可処分の場合でも根拠法規が保護の対象としている者に原告適格があることを認め、当該処分に基づく事実行為により右個別的利益に侵害を受ける蓋然性を事実を基づき社会通念に照らして判断するという手法を採用した。
大阪地判平成六年九月三〇日（判例タイムズ八九五号一二〇頁）は、砂防法の事案に関し、行政法規の目的について、合理的解釈を加え、住民の生命、健康、財産等を個々人の個別的利益として保護する趣旨であるし、事実行為のもつ生命・身体・財産への危険性を重視し、侵害の蓋然性を基準として原告適格を判断した。
神戸地決平成七年七月二〇日（判例地方自治一四〇号六七頁）は、森林法一〇条の二が、災害との関連で「周辺の地域に関係する者」の個別的利益を保護していることを認め、事実に基づき開発行為の危険性と被害を受ける蓋然性を確認した上、申立適格を認めた。
名古屋高判平成八年五月一五日（判例タイムズ九一六号九七頁・山岡町事件控訴審判決）は、�／肯嗚＾譟讃鬚瞭鵑領喘漏�発許可制度が、個人の個別的利益を保護していることを認め、��環境上の利益が林地開発許可制度の保護する個別的利益に含まれることを認めたうえ、��森林法一〇条の二の保護する個別的利益を、災害との関連での生命・身体・財産権の安全に限定せず、森林の伐採が周辺住民の生活環境をいかに破壊するかを事実に即して確認し、森林の下流域において地下からの浄水を享受するという人格的利益をも森林法一〇条の二の保護する個別的利益と解し、さらに、�に［Ь紊陵�益を有する者の範囲について、「被害を受けることが想定される範囲の関係者」という基準を採用し、被害を受ける蓋然性をメルクマールとした。他方、�ナ欅体咾了慊衙瑤浪鮟�の場合と開発行為許可の場合とは被害の性質などについては同等に考えることも可能であるとした。
名古屋高判平成八年九月二五日（行裁集四七巻九号八四九頁）及び原審の名古屋地判平成七年一月三〇日（判例時報一五四九号二七頁）は、河川法の事案に関し、事実に基づき当該事業がどのように個別的利益を侵害するか、そして、その侵害の蓋然性を確認し、法の目的規定を合理的に解釈して、根拠規定の個別的利益を読み込むという解釈手法を採用した。そして、関与手続規定がなくとも行政法規が個別的利益を保護していると解釈できる場合があることを認めた。
大阪地判平成八年一二月一八日（判例時報一六三〇号四八頁）は、森林法は一〇条の二は、保安林制度と趣旨・目的を共通にし、公衆の生命、身体の安全等を保護するだけでなく、森林の周辺に居住し、災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むとした。そして、原告等が、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害により直接的かつ重大な被害を受けかどうかを事実に基づいて審査し周辺住民に原告適格を認めた。なお、本判決は、一〇条の二の環境上の利益については個別的利益であることを否定したが、原告側は、環境上の個別的利益を具体的に主張しておらず、この判示部分に先例的意義はない。
４、判例における「法律上の利益を有する者」の解釈原理
以上のような経過から見て、判例は、行政事件訴訟法九条、三六条の「法律上の利益を有する者」について、以下のような解釈原理を採用していると考えられる。
�）［Ь紊陵�益を有する者とは当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのあるものである。
��当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのあるものかどうかは、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むかどうかにより判断する。
�Ｅ�該行政法規が公益と並んで個人の個別的利益を保護している場合があり参加手続きを設けている場合には個別的利益を保護していると解釈できる。
�す埓�法規が個人の権利利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を加えているかどうかは、直接明文の規定はなくとも法律の合理的解釈により当然に導かれる制約を含む。
�ス埓�法規が個人の個別的利益を保護する趣旨を含むかどうかは、当該行政法規及びこれと目的を共通にする関連法規の関係規定によって形成される法体系に照らして判断すべきである。
�ε�該行政法規が個別的利益を保護しているかどうかは、行政法規の目的規定と根拠規定の二段階にわたる合理的・目的論的解釈を通じて行うことができる
�Ч埓�法規が個人の個別的利益を保護する趣旨を含むかどうかは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質から判断すべきである。
�┗ΝГ糧獣任砲△燭辰討楼焚爾瞭鹵奮�の審査を行う。
�擬�益処分に基づく事実行為がどのような危険性をもち、どのような法益侵害（個別的法益）の蓋然性をもつかを判断する。
�凝�該行政法規にその法益を保護する趣旨が読み込めるかどうかを確認する。
��個別的利益には、純粋な実体法上の利益だけではなく、法律上保護された実体上の利益の有無について実体審理に基づく本案の判断を求める手続き上の利益も含まれる。
��個別的利益を保護される者の範囲は、利益を侵害される蓋然性を基準とする。
というものであり、もんじゅ原子炉事件最高裁判決以降の下級審判決は、基本的にこれらの解釈原理・解釈手法に準拠している。
５、森林法一〇条の二の保護する個別的利益に関する判例の立場
ついで、森林法一〇条の二に関して下級審判例が到達したところを要約しよう。
�／肯嗚＾譟讃鬚瞭鵑蓮∧欅体喟�度と趣旨・目的を同じくすること
�∈匈欧箸隆慙△如崋�辺の地域に関係する者」の生命・身体・財産の安全を個別的利益をして保護していること
�４超�上の利益も個別的利益となること
�ご超�上の個別的利益には、関係者が環境から受ける経済的な利益だけでなく、人格的価値に係わる利益も含まれること
�ノ喘漏�発行為許可制度に関係者の直接的な参加手続きがないことは個別的利益が保護されていることを認めるにあたり障碍とならないこと
�Ω鎚姪�利益を有する者の範囲は、被害を受けることが想定される範囲の関係者であり、被害を受ける蓋然性が判断基準となること
以上である。
６、まとめ
右に紹介した判例の動向から明らかなように、原告等は決して特殊で独自の主張を為しているものではなく、判例から見ても十分に容認可能な議論を行っているものである。
判例の基本的枠組みである公益の反射的利益と具体的個別的利益の区分に関し、判例が意を用いているのは、抗告訴訟の制度趣旨、つまり、抗告訴訟が民衆訴訟ではなく、主観訴訟である点である。抗告訴訟の本質が主観訴訟である以上、当該行政処分に対する原告を一般人から選別・識別する基準が必要であり、従来の判例はこれを行政法規の文理解釈に求めてきた。しかし、長沼ナイキ基地事件最高裁判決以降、行政法規の解釈手法を柔軟化させ、もんじゅ原子炉事件最高裁判決では、行政法規の趣旨・目的だけでなく、保護される利益の内容・性質、利益侵害の蓋然性（距離的近接性など）に選別基準を見いだす手法を採用した。
そもそも公益の反射的利益と個別具体的利益とは、判例上、明確に定義さえ為されていない。また、一般と個別、公益と私益という区分はあまりにも相対的である。ことに、環境にかかる価値は最終的にはすべて個人に帰属し、公益と個別具体的利益との区別に関し、客観的な基準を建てることが不可能である。
原告等は、個別的利益とは、具体的・客観的なものであって、社会的な評価が可能（討議可能・評価可能・考量可能）であれば十分であり、原告の範囲を画する基準は、�々埓�法規の趣旨・目的、��当該利益の内容・性質、��事実行為の危険性と利益侵害の蓋然性から導くことが可能であると考える。逆に言えば、右基準を見いだすことが可能な場合に個別的利益を認めれば良いのである。

第五、森林法及びその関連法規の検討


一、はじめに
前記の通り、判例は、�〇�実行為の危険性と法益（個別的法益）侵害の蓋然性という事実連関を基礎として、侵害が予想される法益を確認し、�△修慮鎚姪�法益を行政法規の保護法益と解釈できるかどうか判断するという手法を採用しており、さらに、�９埓�法規の解釈にあたっては、その目的規定と根拠規定を、当該行政法規と目的を共通する条約・法令・行政通達等の関連法規の関係規定によって形成される法体系を前提に合理的に行うことを要求している。
そこで、森林法一〇の二を解釈するにあたっては、森林法の目的規定、林地開発許可制度と目的を共通にする森林法の他の制度、林地開発許可制度に関する通達類、上位法である林業基本法、目的を共通にする法律、たとえば、自然環境保全法などの関連法令の関係規定によって形成される法体系の内容を確認する必要がある。この法体系の中において、林地開発許行為許可処分が、どのような範囲の人々の、どのような個別具体的利益を保護の対象としていると解すべきかががここでの課題である。

二、森林法の目的と林地開発行為許可制度の趣旨
森林法一条は、「この法律は、森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的」と定めている。
１、森林の保続培養と森林の機能
森林法は、「森林の保続培養」（法一条）を図ることを目的とするが、以下で述べるように、森林法は、森林の有する諸機能の重要性を認識し、その機能の重要な内容として環境を保全する機能を挙げている。従って、森林法は、「環境の保全」を目的の一つとしている。
２、森林の機能と環境の保全
（一）林地開発行為許可制度は、森林の有する諸機能を規定する（法一〇条の二）。
そもそも、右林地開発許可制度（法一〇条の二）は、昭和四九年の森林法改正（森林法及び森林組合合併助成法の一部を改正する法律）により創設されたものであり、地域森林計画の対象となっている民有林において、一定の開発行為をする場合に知事の許可を要する制度である。
「森林法及び森林組合合併助成法の一部を改正する法律の施行について〔開発行為の許可制及び伐採の届出制関係〕昭和四九年一〇月三一日四九林野企第八二号各都道府県知事あて農林事務次官通達」（以下「開発許可等施行通達」という。乙第四号証の二）は、右制度を創設する社会的背景として、「経済の高度成長、都市化の進展等の社会経済情勢の変化」を背景とする「森林を対象とする開発行為の増加」をあげ、林地開発許可制度の目的を「森林の有する多角的機能を総合的かつ高度に発揮させること」と「森林の土地の適正な利用の確保」におく。そして、これを通じて「国民生活の安定と地域社会の健全な発展」を図ることを本制度の目標とするのである。
右「森林の有する多角的機能」について、法一〇条の二は、�　崚�該開発行為をする森林の現に有する『土地に関する災害の防止の機能』からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」（同項一号）�◆崚�該開発行為をする森林の現に有する『水害の防止の機能』からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること」（同項一の二号）��「当該開発行為をする森林の現に有する『水源のかん養の機能』からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること」（同項二号）�ぁ崚�該開発行為をする森林の現に有する『環境の保全の機能』からみて、当該開発行為より当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること」（同項三号）のいずれにも該当しないとき、林地開発を許可しなければならないとし、森林の機能として、�〆匈欧遼瓢漾↓⊃絣欧遼瓢漾↓�水源のかん養、�ご超�の保全を挙げる。
（二）ところで、森林法四条一項は、「農林水産大臣は、政令で定めるところにより、林業基本法第一〇条第一項の基本計画及び長期の見通しに即し、かつ、保安施設の整備の状況等を勘案して、全国の森林につき、五年ごと、一五年を一期とする全国森林計画をたてなければならない」とし、林業基本法一〇条第一項が規定する基本計画等に即して「全国森林計画」をがたてられべきことを規定する。右全国森林計画は、「良好な自然環境の保全及び形成その他森林の有する公益的機能の維持増進に適切な考慮が払われたものでなければならない」とされており（森林法四条第三項）、森林法は森林の有する公益的機能の維持増進、特に「良好な自然環境の保全及び形成」という要因を重視している。
（三）森林法五条一項は、「都道府県知事は、全国森林計画に即して、森林計画区別に、その森林計画区に係る民有林につき、地域森林計画をたてなければならない」と規定し、地域森林計画においても、森林の有する機能別の森林の所在の記載を要求している（法五条第二項第二号）。
（四）さらに、森林法の上位法である林業基本法も森林の機能について規定する。
すなわち、林業基本法三条第二項は「国土の保全その他森林の有する公益的機能の確保」を考慮して諸施策が講じられなければならないとし、
林業基本法一〇条は、森林資源に関し基本計画の公表を政府に義務づけているが、近年公表された「森林資源に関する基本計画」（甲第一六八号証）では、�機平肯啝餮擦亡悗垢覺靄楾汁曄法Γ院平肯啝餮擦鬚瓩阿觸�情勢）の（森林の有する公益的機能の発揮に対する期待の高まり）において、「土砂の崩壊・流出やなだれ等山地に起因する災害を防ぐための森林の整備とともに、河川流量を平準化し、渇水や洪水を緩和するなど水源のかん養を図るための森林の整備が必要である」だけでなく、更に「伐採・造林・下刈等を体験することのできる森林、野生生物の生態を観察することのできる森林、四季折々の自然の美しさを享受できる森林、騒音や風を防ぐなど生活環境を保全する森林、生物活性物質を活用した健康増進活動が可能な森林など人工林、天然林を問わず、様々なニーズに適応した多様な森林を確保し、適切に整備することが必要である」との認識を示し、森林の有する環境保全機能とともに森林と人間とのかかわりを重視している。森林と人間の関わりに関していえば、林業基本法は、災害の防止、水害の防止、水源の涵養だけでなく、�［啅搬慮魁↓�科学的・文化的情報源としての森林に対する観察、��自然美の享受、�だ験茣超�の保全、�シ鮃�増進をあげているが、ここで、森林環境の人格的、非金銭的価値に注目していることに留意すべきである。
３、行政通達における森林法の環境の保全機能
　森林法における環境の保全の内容は、林地開発行為許可処分にかかる通達等からも理解できる。
（一）前記開発許可等施行通達は、森林の環境保全の機能について、第一・６に許可基準を設け、その（４）において、森林の自然環境の保全機能との関連において、林地開発行為の許可をなすに当たっての判断要因や基準を定めている。すなわち、「当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること（法一〇条の二第二項第三号）に該当しないと認められることであり、開発行為をする森林の樹種、林相、周辺における土地利用の実態等からみて自然環境及び生活環境の保全の機能を把握し、森林によって確保されてきた環境の保全は森林以外のものによって代替されることが困難であることが多いことにかんがみ、開発行為の目的、態様等に応じて残置管理する森林等の割合等からみて、周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれの有無を判断する趣旨である」としているのである。
　このように、右通達は、林地開発行為許可にあたって、�‥�該開発行為の対象となる森林が現にもっている環境保全機能に注意すべきこと、��開発行為の対象となる森林自体の特質（樹種、林相）に注目すべきこと、��周辺における土地利用等の実態に注目すべきこと、�ご超�保全の機能には「自然環境の保全」と「生活環境の保全」が含まれること、�タ肯咾隆超�保全機能は、森林以外のものによって代替することが困難であることに留意すべきことなどを規定する。
（二）ついで、前記開発許可等施行通達・別紙「開発行為の許可基準の運用について」第２（機能の高い森林の保全）の（３）においては、
「地域森林計画において、自然環境の保全及び形成並びに保健・文化・教育的利用のため伐採方法を特定する必要があるものとして定められている森林、生活環境の保全及び形成のため伐採方法を特定する必要があるものとして定められている森林又は特に生活環境保全機能及び保健文化機能を高度に発揮させる必要があるものとして定められている森林」
をあげ、このような森林における開発は、法一〇条の二第二項各号の一に該当する場合が多い考えられるとし、「その審査は特に慎重に行うものとし、その目的、態様等を考慮の上、開発行為を極力これらの森林以外の土地に指向させるものとする」と規定する。
（三）また、前記開発許可等施行通達・別紙「開発行為の許可基準の運用について」第３（開発行為の要件について）の（１）アは、
「開発行為又は開発行為の事業の実施について法令等による許認可を必要とする場合には、当該許認可等が為されているか又はそれが確実であることが明らかであること」と規定する。なお、周知の通り、文化財保護法八〇条は、「史跡名勝天然記念物に関しその現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならない」と規定する。
　さらに、同別紙・第３（開発行為の要件）・５（第一〇条の二第二項第三号関係事項）では、「（２）植生の保全等の必要がある場合」の他「（３）景観を維持する必要がある場合」も含めている。
（四）しかも、同通達・別紙第３・５（法一〇条の二第二項第三号関係事項）（１）では、「開発行為をしようとする森林の区域に開発行為に係る事業の目的、態様、周辺における土地利用の実態等に応じ相当面積の森林又は緑地の残置又は造成が適切に行われることが明らかであること」
とし、「開発行為の許可基準の運用細則について、昭和四九年一〇月三一日四九林野治第二五二一号　各都道府県知事あて林野庁長官通達」（乙第四号証の三）の別紙（開発行為の許可基準の運用細則について）19・（１）では、
「『相当面積の森林又は緑地の残置又は造成』とは、森林又は緑地を現況のまま保全することを原則とし、止むをえず一時的に土地の形質を変更する必要がある場合には、可及的速やかに伐採前の植生回復を図ることを原則として森林又は緑地が造成されるものであること」とする。
この場合において、残置し又は造成する森林又は緑地の面積の事業区域内の森林面積に対する割合は、表４（例えば、開発目的がゴルフ場の造成の場合、事業区域内において残置し又は造成する森林又は緑地の割合に関し、森林率はおおむね五〇パーセント以上とする−残置森林率おおむね四〇パーセント以上とされている）の事業区域内において残置し又は造成する森林又は緑地の割合によるものとする」
等と具体的に規定している。
「開発行為の許可基準の運用細則について、昭和四九年一〇月三一日四九林野治第二五二一号　各都道府県知事あて林野庁長官通達」の別紙（開発行為の許可基準の運用細則について）２０は、「運用基準第３の５の（２）の「周辺の植生の保全」には、貴重な動植物の保護を含むものとする」規定する。
（五）このような林地開発許可制度に関する行政通達から見て、行政庁は、森林法一〇条の二第二項三号に関し、以下のような視点から森林環境の保全を図る趣旨であることが理解できる。
　すなわち、
�‘鷙犹姐罎蓮◆崚�該開発行為をする森林の現に有する『環境の保全の機能』からみて、当該開発行為より当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること」と規定するが、これは、当該開発行為の対象となる森林自体の環境保全機能を直接的に保護する趣旨であり、その関連で周辺地域の環境を保護するものであること
�⊃肯售超�の保全によって、当該森林の科学的・文化的情報を保護するとともに、その情報に対する人間のアクセスや精神的・人格的関わりの保護をも視野に入れるべきこと
�Ｅ�該開発行為の対象となる森林の機能に対する評価に留意すべきであり、他の法令（たとえば、文化財保護法）により当該森林が自然環境保全の機能（たとえば、特別天然記念物や天然記念物に指定された動植物の生息地である森林）をもつことが確められる場合、所管の行政庁の許認可を得、又は得ることが確実であって、当該森林の自然環境保全機能を害してはならず、その保護が原則となること
以上である。
４、森林法一〇条の二と目的を共通にする関連法規
　以上から、森林法が環境の保全を目的とし、林地開発許可制度も環境の保全を目的とすることが明らかとなった。そもそも、災害の防止、水害の防止、水源の涵養も広い意味においては、環境保全の一こまであり、これらは環境保全の非制限的、非本質的例示というべきである。
　他方、環境の保全を目的としている法律も、森林法一〇条の二と目的を共通にする関連法規であり、林地開発行為許可処分に対し、客観的な適法性の基準を提供するとともに、その保護すべき法益、なかでも、人間と森林環境との個別的関係性・森林に対する個別具体的利益を見いだすための手がかりとして、自然環境保全法等の環境保全法が考慮されるべきである。
　なお、原告適格の有無の判断は、口頭弁論終結時を基準としてなされるのであるから、森林法一〇条の二の新設後に制定された法規であっても、関連法規として法体系を解釈する規範となるというべきである。
５、自然環境保全法と森林の環境保全機能
　右に述べたとおり、自然環境保全法は自然環境の保全という意味において、森林法と目的を共通にする。
　自然環境保全法一条は、「自然環境の保全と目的とする法律と相まって、自然環境を保全することが特に必要な区域等の自然環境の適正な保全を総合的に推進することにより、広く国民が自然環境の恵沢を享受するとともに、将来の国民にこれを承継できるようにし、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活に寄与することを目的」とする。
　自然環境保全法一二条は、自然環境の保全に関する基本構想等に関して、「自然環境保全基本方針」を定めなければならないとし、同方針（甲第一六六号証）の中で、自然環境保全の必要性について次のように規定している。
　第１部（自然環境の保全に関する基本構想）１（１）は、
「人為のほとんど加わっていない原生の自然地域、国を代表する傑出した自然景観、更に学術上、文化上特に価値の高い自然等は、多様な生物種を保存し、あるいは自然の精妙なメカニズムを人類に教えるなど」の機能を有し、「国の遺産として後代に伝えなければならないものである」から「いずれもかけがえのないものであり、厳正に保全を図る。」必要があるとする。
また、同１（２）は、
「国土の自然のバランスを維持する上で重要な役割を果たす自然地域、すぐれた自然地域、野生動物の生息地、更に野外レクリェーションに適した自然地域等は、いずれも人間と自然との関係において欠くことのできない良好な自然である」との理由から、適正な保護を求めている。
　以上のように、自然環境保全法は自然環境保全基本方針と相まって、国民が自然の恵沢を享受できることを保障し、将来の国民にもその恵沢を承継させることを企図する。すなわち、自然環境保全法は、あくまで自然と国民との関わり、ことに自然の非金銭的価値の保護を目的とするのである。
　他方、自然環境保全法と自然環境保全基本方針は、自然環境に国民の健康の確保・文化的生活の確保という機能を見いだしている。
そこで、自然環境保全法と自然環境保全基本方針は、�／涌戮里曚箸鵑媛辰錣辰討い覆じ鏡犬亮�然地域、��国を代表する傑出した自然景観、�３惱兢紂∧顕従綟辰鵬礎佑旅發ぜ�然等が、a多様な生物種の保護、b科学的・文化的情報源としての機能を持つことを認める。
さらに、�々馘擇亮�然のバランスを維持する上で重要な役割を果たす自然地域、�△垢阿譴深�然地域、�Ｌ鄒呼以�の生息地、�ぬ邀哀譽�リェーションに適した自然地域等を、人間と自然との関係において欠くことのできない良好な自然であるとし、自然の基底的・公共的価値、あるいは非金銭的価値に注目しながら、人間と自然環境との関わりを保護するのである。
自然環境保全法はこれらの関わりを抽象的・一般的公益としてのみ保護しているのではない。自然環境保全審議会の設置（一三条）、地域指定（一四条、一九条、二二条、二五条一項、二六条一項、二七条一項）、指定地域内における行為制限（一七条一項、一九条三項、二五条三項・四項、二六条三項、二七条三項）、保全計画（一五条、二三条）、中止命令（一八条）、報告（二〇条、二九条）、実地調査（三一条）など自然環境を保全するために非常に詳細で具体的な保護手法を規定しており、保全審議会や保全計画では、その自然地域の自然度だけでなく、具体的な人間と自然との関わりも考慮されることになっており、人間と自然との具体的個別的関わりをも保護していると解されるのである。
６、環境基本法
（一）また、自然環境保全法の上位法である環境基本法は、「環境の保全について、基本理念を定め」、「環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的」としている（法一条）。
このように、環境基本法は、「環境の保全」の基本理念を定めたものとして、環境保全に関する一般通念を確認した法律であり、自然環境保全法と併せて、森林法の解釈に当たり検討されなければならないものである。
（二）環境基本法一五条は、環境の保全に関する施策が「総合的かつ計画的」に推進される必要性から、政府が、「環境の保全に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、環境の保全に関する基本的な計画を定めなければならない」と規定する。そして、この「環境基本計画」は、環境保全に関する政府全体の基本的な計画として政府部内の調整を経て、閣議の決定により定められるものであるから、国の策定する各種計画において、環境の保全に関しての基本施策であることが担保されるのである（内閣総理大臣答弁）。
環境基本法は、環境保全を目的とする基本法であり、森林法の環境保全
にかかる規定や制度に関しては、上位法というべきである。
（三）環境基本法三条は、「環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことができないものであること及び生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに、人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるよう適切に行われなければならない。」と規定し、�ヾ超�の人類の存続基盤であること、��環境が人間の健康で文化的な生活に欠くことができないものであること、�４超�が自然生態系の微妙なバランスの上に成り立っていること、�ご超�が人間活動の負荷によって損なわれるおそれが生じてきていること、�タ洋爐梁限慨霹廚任△蝓∨�かな恵沢をもたらす環境を将来のわたって維持されるように適切に保全されねばならないことという五つの命題を宣明する。
環境基本法は、環境の保全のために、まず生態系そのものの保全を要求する。その上で、環境の保全の施策の策定に当たり、「生態系の多様性の確保、野生生物の種の保全その他の生物の多様性の確保が図られるとともに、森林、農地、水辺等における多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて体系的に保存されること」を求めている（一四条）。
このように、環境基本法は、自然環境保全基本方針が「多様な生物種の保存」を強調しているのと同じく、さらに体系的に、�＼限峽呂梁人誉�の確保、�¬鄒言己�の種の保全、��生物の多様性の保護が図られることを法規範として提示するとともに、環境の人間に対する意義が明確にされ、人類の存続基盤であるとともに、人間の精神的・経済的活動の源泉としての価値を持つことを明確にする。
７、生物の多様性に関する条約
　生物多様性条約は「生物の多様性」保護の重要性とその意義を明確にする。
　生物多様性条約は、生物多様性を次のように定義する。
「すべての分野、特に陸上生態系、海洋及び水性生態系ならびにこれが複合した生態系における生物の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む」（二条）
　そして、その前文において、
　「締結国は、生物多様性が有する内在的価値並びに生物の多様性及びその構成要素が有する生態学上、遺伝上、社会上、経済上、科学上、教育上、文化上、レクリェーション上及び芸術上の価値を意識し、生物の多様性が進化及び生物圏における生命保持の機構の維持のため重要であることを意識し、（中略）生物の多様性がある種の人間活動によって著しく減少していることを懸念し、生物の多様性に関する情報及び知見が一般的に不足していること並びに適当な措置を計画し及び実施するための基本的な知識を与える科学的、技術的及び制度的能力を緊急に開発する必要があることを認識し、生物の多様性の著しい減少又は喪失の根本的原因を予想し、防止し及び取り除くことが不可欠であることに留意し、生物の多様性の著しい減少又は喪失のおそれがある場合には、科学的な確実性が十分にないことをもって、そのようなおそれを回避し又は最小にするための措置をとることを延期する理由とすべきでないことに留意し、さらに、生物の多様性の保全のための基本的な要件は、生態系及び自然の生息地の生息域内保全並びに存続可能な種の個体群の自然の生息環境における維持及び回復であることに留意し、（中略）現在及び将来の世代のため生物の多様性を保全し及び持続可能であるように利用することを決意して、次のとおり協定した」
とする。
　また、一二条で締結国が「生物多様性及びその構成要素の特定、保全等に関する科学的技術的な教育訓練事業のための計画を作成し」、一三条で、「生物の多様性の保全の重要性及びその保全に必要な措置についての理解、各種の情報伝達手段によるそのような理解の普及並びにこのような題材の教育事業の計画への導入を促進し及び奨励すること」を期待している。
　このように、同条約は、�＼己�の多様性が「進化及び生物圏における生命維持の機構」という人間存在にとっての根源的価値を有することを確認し、�∪己�の多様性が「生態学、遺伝、社会、経済、科学、教育、文化、レクリェーション、芸術等などの人間的諸価値」の維持・発展に不可欠であることを指摘し、��生物多様性に関する情報及び意見を確保することが必要かつ緊急な課題であることを明確にしているのである。
８、モントリオール・プロセス
　更に、生物多様性条約を前提として、森林経営のための基準・指標として、モントリオールプロセスが定められているが、この中では、生物多様性が重要な指標となることを詳細に規定している。
（一）「温帯林等の保全と持続可能な管理の基準・指標」（いわゆるモントリオール・プロセス）は、一九九二年のリオデジャネイロにて開催された国連環境会議において、「森林原則声明」及びアジェンダ二一が採択され、林業の分野においても「持続可能な森林管理」に向けて各国が努力することが合意されたことに端を発し、国連持続可能開発委員会に提示されるべき持続可能な森林経営のための具体案として、日本・米国・ロシア・カナダを含む一二カ国のヨーロッパ以外の温帯林諸国（その森林面積は温帯林面積の約九〇パーセントを占めている）によって、一九九五年二月に作成されたものである。
（二）モントリオール・プロセス作成の日本側代表委員であった森林総合研究所の藤森隆郎氏によると、「この基準・指標に反映される森林経営へのアプローチは、生態系としての森林の管理」であるとされる。
　そして、生態系としての森林にアプローチするに当たり、まず重要な指標となるのが生物多様性である。
　モントリオール・プロセスは、
「生物多様性の基準」
「森林生態系の生産力の維持」
「森林生態系の健全性と活力の維持」
「土壌及び水資源の保全と維持」
「地球的炭素循環への森林の寄与の維持」
の五つの基準から構成され、それぞれの基準が、幾つかの指標によって補充されるという構造となっており、このうち「生物多様性の基準」の内容は、具体的には、
　　「生態系の多様性」
「種の多様性」
　　「遺伝的多様性」
の三つの観点から構想されているのである。
　右のうち、「生態系の多様性」の指標は以下のとおりである。
　　ａ全森林面積に対する各森林タイプごとの面積
　　ｂ森林タイプごと及び齢級又は遷移段階ごとの面積
　　ｃＩＵＣＮ又は他の分類システムにより定義された保護地域区分に　　　おける森林タイプごとの面積
　　ｄ齢級又は遷移段階ごとに区分された保護地域区分における森林タ　　　イプごとの面積
　　ｅ森林タイプの分断度合
の５つからなる。
　次いで、「種の多様性」の指標は、以下のとおりである。
　　ａ森林に依存する種の数
　　ｂ法令又は科学的評価によって、生存可能な繁殖個体群を維持でき　　　ない危険性があると決定された森林に依存する種の状態（希少、　　　危急、絶滅危惧、又は絶滅）
　最後に「遺伝的多様性」は、以下の二つの指標から構成されている。
　　ａ従来の分布域より小さな部分を占めている森林依存性の種の数
　　ｂ多様な生息域を代表する生物種の、それらの分布域にわたってモ　　　ニターされている集団（個体数）のレベル
（三）このようなモントリオール・プロセスの基準と指標は、国内の政策形成において、政策立案者が参考にできる国際的な目安を提供し、持続可能な森林経営の支援を目的としている。
　モントリオール・プロセスの基準と指標、ことに生物多様性の基準とその指標は、本件のような林地開発行為とその許可処分が、持続可能な森林管理基準という国際合意の立場からみて、到底、許されないものであることを明らかにする。本件林地開発行為は民間営利会社が行うゴルフ場開発にかかるものであって、特段公益を目的とするものではない。モントリオールプロセスは、森林法とその通達の解釈に当たって、森林法等の条文の文言、ことに「環境の保全」というコンセプトの具体的内容を補充しており、森林法における環境保全の重要な解釈指針となる。


９、まとめ
　以上のように、森林法、その上位法である林業基本法、林地開発行為許可処分に関する行政通達、環境の保全という目的を共通する自然環境保全法、環境基本法、生物多様性保護条約やモントリオールプロセスなどの条約や国際合意など関連法規の関係規定等に鑑みれば、森林法は、森林を生活環境及び自然環境として保全し、その目的は、「生物の多様性」と人間と自然との関わりの保護にある。
　生物の多様性の保護とは、�＼己�の多様性が進化及び生物圏における生命維持の機構という人間存在にとっての根源的価値を有していること、�∪己�多様性が生態学、遺伝、社会、経済、科学、教育、文化、レクリェーション、芸術等などの人間的諸価値の維持・発展に不可欠であることを意味し、今日的な緊要の課題として、��生物多様性に関する情報の確保が要求されているのである。
　ここから、森林法は、森林が科学的・文化的情報源であること、人間が森林との関わりに人格的・精神的価値をもつという認識を前提に、これらの関わりを保護するために森林の保護を図っていると解される。

三、森林法の保健機能と林地開発許可制度
（一）森林法は、既述のように森林の有する諸機能を規定しているが、その中にはさらに「保健機能」も含まれている。
　前記のとおり、林業基本法によって「森林資源に関する基本計画」が公表されているが、その�供平肯啝餮酸鞍�の目標）・１（森林の機能の整備の目標）において、「森林の有する多面的な機能のうち木材等生産、水源かん養、山地災害防止、生活環境保全及び保健文化の各機能」について、特に規定している。
　森林法でも、いわゆる保安林制度の中では、「公衆の保健」（法二五条第一項第一〇号）を目的とした保安林の設定が規定されている。保安林制度と林地開発許可制度が同じ目的を持つことは、名古屋高判平成八年五月一五日判決（判例タイムズ九一六号九七頁）、大阪地判平成八年一二月一八日判決（判例時報一六三〇号四八頁）が認めるところである。
　さらに、林地開発許可制度は、既述のように『土地に関する災害の防止の機能』、『水害の防止の機能』、『水源のかん養の機能』、『環境の保全の機能』を規定しているだけであるが、前記開発許可等施行通達・別紙「開発行為の許可基準の運用について」第２（機能の高い森林の保全）の（３）においては、
「地域森林計画において、自然環境の保全及び形成並びに保健・文化・教育的利用のため伐採方法を特定する必要があるものとして定められている森林、生活環境の保全及び形成のため伐採方法を特定する必要があるものとして定められている森林又は特に生活環境保全機能及び保健文化機能を高度に発揮させる必要があるものとして定められている森林」
をあげ、このような森林における開発は、法一〇条の二第二項各号の一に該当する場合が多い考えられるとし、「その審査は特に慎重に行うものとし、その目的、態様等を考慮の上、開発行為を極力これらの森林以外の土地に指向させるものとする」と規定する。
　また、同別紙・第３（開発行為の要件）・５（第一〇条の二第二項第三号関係事項）では、「（２）植生の保全等の必要がある場合」の他「（３）景観を維持する必要がある場合」も含めている。
　以上のような規定の仕方からすれば、上記『環境の保全の機能』（法一〇条の二第二項第三号）の中に「保健機能」も含まれているものと解される。
従って、森林法は、「保健機能」の保護も目的の一環としているのである。
（二）このような保健機能に関しては、森林の保健機能の増進に関する特別措置法が、具体的に規定している。
すなわち、同法は、「この法律は、公衆の保健の用に供することが相当と認められる森林につき、保健機能の増進を図るための特別の措置を講ずることにより、森林資源の総合的な利用を促進し、もって林業地域の振興と国民の福祉の向上に寄与することを目的」とし（法一条）、さらに「森林の保健機能の増進を図るべき森林の設定に関する基本的な事項」等については、基本方針によって定められており（法三条）、その基本方針（甲第一六七号証）の中で、
�毅院癖欸魑’戎肯咾寮瀋蠅坊犬覦婬禅擇嗟�念）
「国民の生活に対する意識が、精神的な豊かさをより重視する方向へ移行している中で、森林浴、レクリェーション、創作活動、自然体験学習など保健・文化活動の場としての森林の利用が増加しており、今後においても自由時間の増大や価値観の多様化の進展により、森林の有する保健機能の高度発揮への要請はますます高まってくる」
として、森林の有する保健機能の内容を具体的にし、
同２（保健機能森林の設定の指針）（１）は
　「その森林が、湖沼、渓谷等と一体となって優れた自然美を構成している森林、多様な樹種、林相からなり明暗、色調に変化を有する森林、史跡、名称等と一体となって潤いのある自然景観を構成している森林等の保健機能の高い森林であること」
に留意して、自然環境の保全に配慮しつつ設定すべきであるとする。
（三）このように、森林法は、森林の有する保健機能についても「環境保全機能」に含めて保護の対象としているのである。これは森林環境が人間の健康の維持、すなわち、身体的・精神的健全さの確保に重要な意義を有することを認め、その人格的価値に関わる機能を保護しているものと理解できる。

四、法一〇条の二第二項第三号の保護する具体個別的利益
１、隣地開発行為の侵害する利益と侵害の態様
　　以上のように、森林法は、森林の有する生物の多様性を保護し、また保健機能を保護しているが、その中にあって、森林法一〇条の二第二項第三号は、「当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により『当該森林の周辺の地域』における環境を著しく悪化させるおそれがある」として、具体的に特定された地域における生物の多様性、保健機能に関し、林地開発の許可要件を定めているのである。そして、開発行為に当たっての許可要件の審査の際、その審査ｕ�裃rがあった場合、森林の有する多様性が失なわれ、保健機能も害され琉結果、その森林と個別的関係を有する人間の利益も害されるおそれがあることにかんがみ、右規定はそのような環境の悪化並びに当該森林と関係を有する者の利益が侵害されることを防ぐため、開発許可の段階で開発行為の内容を十分審査し、環境の悪化のおそれがある場合には許可しないこととしているのである。
　　森林は、開発行為（伐採）により、災害防止・水害防止・水源涵養、環境保全、生物多様性の保全などの機能を失い、森林生態系は不可逆的に破壊され、野生動植物の生息環境も大きく変化し、その影響を科学的に予測することはきわめて困難である。また、開発行為により、人と森林との精神的結びつきも失われる。
　　森林の破壊は、森林を生物多様性の情報源としてフィールドワークを実践してきた者にとって、当該森林とその周辺の生態系の情報、当該森林とその周辺を生息地とする野生動植物（ことに地域個体群）に関する情報は永久に失わせる。また、当該森林やその周辺地域と深い精神的関係を取り結んできた者にとって、森林の伐採は代償不可能な精神的痛みを残す。また、当該森林とその周辺地域を保護の対象として、自然保護活動を行い、保護と利用に関する文化的・社会的情報を獲得してきた者や団体にとっては、その自己目的の一部が失われる。
２、森林法の保護する個別具体的利益
　　林地開発に伴う自然環境の破壊によって、侵害される人間的価値は、森林との関係が人格的・精神的・経済的に深ければ深いほど重大である。開発行為のもつこのような法的価値侵害の危険性は、社会通念上あるいは条理上容易に予測可能であり、森林法が自然環境の保全を目的とする以上、右のような法益侵害からの保護を予定していると解される。　
そして、このような個別関係性を構成する事実の一端が憲法上の人権や国際人権規約上の規約人権の保護対象となっていることは、すでに平成九年七月一四日付準備書面で詳細に主張したところである。
　　たとえば、国際人権規約自由権規約一九条二項は、あらゆる媒体から、あらゆる種類・形態の情報を求める自由を保障するが、そこには、�ー�然科学者やナチュラリストが森林生態系から生物多様性にかかる自然科学的情報を求める権利や��環境保護団体が森林保護政策を論議するために必要な自然的・文化的情報を森林生態系に求める権利も含まれる。そして、国際人権規約自由権規約二条一項によって、締結国は、領域内にあるすべての個人に対して規約人権を尊重・確保する具体的な法的義務を負う。
　　また、人間と森林生態系との関わりは、国際人権規約社会権規約一五条によっても、日本国憲法二一条によっても保障されているところである。　これらの条約規範、憲法規範も人間と自然との関わりの保護を目的とするものであり、自然保護法、環境保護法と目的を共通にし、その上位規範として機能する。林地開発行為許可制度は森林環境の保護を目的とするのであるから、このような上位規範によって規律されることになる。すなわち、国際人権規約や憲法も、森林法一〇条の二と目的を共通にする関連法規の関係規定でなり、林地開発行為許可にかかる裁量権を行使するにあたっての規範となる。
他方、このような個別的関係性の有無ｗC事実に即して容易に判断することができ、法律上の利益の識別基準として十分に機能しうる。
　　以上から、森林法一〇条の二は、このような人々と森林との個別的関係性を保護しているものと解することができるのである。
　　以上のとおり、森林法の趣旨、目的、同法一〇条の二第二項第三号が開発許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等にかんがみれば、同号は、当該開発行為の対象となっている森林及びその周辺地域に対して人格的・精神的・経済的に関わりが深く、開発によって重大な侵害を受けることが想定される個人の利益を、個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解するべきである。そして、当該森林やその周辺地域において、�，修寮己�多様性、生物種、地域個体群、生物個体種やそれらと森林生態系との関連、地域生態系との関連を科学的情報源としてフィールドワークを営むもの、�⊃祐屬伴�然とのあり方に関する文化的・社会的情報源として自然保護活動の対象とするもの、�Ｅ�該開発行為の対象となっている森林やその周辺地域の自然環境と深い人格的・精神的関わりをもつ自然人や環境保護団体の、そのような個別的な関わりを個別具体的利益として保護するものと解されるである。
３、保安林制度との比較
　 なお、被告は、保安林制度における「直接の利害関係を有する者」の保護規定（法一七条一項、同三二条）が、林地開発行為許可制度には置かれていないことを強調する。
（一）しかしながら、法一〇条の二は、同条第二項で都道府県知事のなす開発の許可に対して制限を設け、�　崚�該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」（同項一号）�◆崚�該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること」（同項一の二号）��「当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること」（同項二号）�ぁ崚�該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為より当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること」（同項三号）の各号の場合には許可できないことを定め、右�，覆い鍬い坊任欧覲突�益が林地開発行為許可制度により保護されるよう図っている。
一方、保安林制度を定める法二五条は、同条一項で農林水産大臣は、�　嵜絽擦里�ん養」（同項一号）�◆崚攤修領�出の防備」（同項二号）��「土砂の崩壊の防備」（同項三号）�ぁ嵌�砂の防備」（同項四号）�ァ嵒�害、水害、潮害、干害、雪害、又は霧害の防備」（同項五号）�Α屬覆世賈瑤詫鄒个隆躙韻遼瓢漾廖米厩猩珊罅豊А峅从劼遼蛭�」（同項七号）�─峙�つき」（同項八号）��「航行の目標の保存」（同項九号）��「公衆の保健」（同項一〇号）��「名所又は旧跡の風致の保存」（同項一一号）の各号に掲げる目的を達成する必要があるときは、森林を保安林として指定することができると規定して、保安林により右�，覆い鍬�に掲げる利益が保安林によって保護されるよう図っている。
　このように、林地開発制度における右�，覆い鍬い粒突�益と保安林制度による右�，覆い鍬�の各利益の内容はほぼ同じであり、同じ法益を保護しているもの解される。
このことは、林地開発行為許可制度が制定された経緯からも裏付けられる。すなわち、右林地開発行為許可制度は、「保安林以外の森林であっても、それが国民生活の安定と地域社会の健全な発展に少なからぬ役割を有していることにかんがみ、これらの森林において開発行為を行うに当たってはこれら森林の有する役割を阻害しないよう適正に行うことが必要であり、」「保安林制度との連けいを図りつつ、森林の土地の適正な利用を確保することを目的としている」（前記通達）のであって、保安林制度と趣旨、目的を共通としているのである。
そうであれば、法一七条一項や同三二条等が定める手続保障規定がないからといって、法一〇条の二第二項第三号が個々人の個別的利益を保護する趣旨を含まないということはできない。
（二）しかも、林地開発行為許可制度は、地域森林計画の対象となっている森林における開発行為を制限するものであるところ、森林法は「地域森林計画に意見がある者は、その公表があった日から起算して三〇日以内に当該都道府県知事に対し、理由を附した文書をもって、意見を申し立てることができる」と定め（法七条第一項）、さらに、都道府県知事は意見の申立があったときはこれを誠実に処理しなければならず、「地域森林計画を変更しなければならないと認められるときは、都道府県知事はこれを変更するものとする」としている（第二項）。
　森林法が、意見を申し立てることができる者の範囲について、特に定めていないことからすれば、同条は、地域森林計画の内容について正当な利害関係を有する者の保護規定と解される。そして、地域森林計画では、森林の有する機能別の森林の所在を定め（法五条第二項第二号）、樹根及び表土の保全その他森林の土地の保全に関する事項も定めることとされている（同条第二項第六号）。
　従って、当該森林の環境保全機能や林地開発許可に関し利害関係を有する者は、法七条に基づきその森林における環境の悪化について意見を申し立てることによって地域森林計画の策定に関わり、同計画を変更させることが可能なのである。そうであれば、林地開発行為許可制度に関し、何ら手続保障規定がないわけではない。

五、法一〇条の二第二項一号、一号の二
　既に述べたように、法一条は「この法律は、森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的」と定め、森林の有する諸機能を前提として森林の保続培養と森林生産力の増進とを図ることを目的としている。
すなわち、森林の有する機能を保護することを前提としているのである。
森林には、環境の保全の機能以外にも、災害防止機能、水害防止機能、水源かん養機能が存在する。そして、ここで、「災害防止」、「水害防止」という場合、災害、水害が生じたときに、森林に関係する者が被害を受ける可能性があることを前提としている。
そして、法一〇条の二第二項は、都道府県知事が林地開発の許可を行う場合に各号のいずれにも該当しないと認めるときに限って許可をしなければならないとして、制限を設け、�　崚�該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」（同項一号）�◆崚�該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること」（同項一の二号）と規定している。ここにおいて、「当該森林の周辺地域」又は「当該森林が有する水害防止機能に依存する地域」というように具体的に特定された地域における災害の防止を林地開発の許可要件と定めているのである。
しかも、開発行為に当たっての許可要件の審査の際、その審査ｕ�裃rがあった場合、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害が生じる可能性があり、森林と関わりの深い者であればあるほど、被害を受ける蓋然性は高くなる（被害を受ける蓋然性が高いのは、当該森林の近くに居住する者だけに限られない）。
また、通達等からみても、林地開発行為の許可をなすに当たっての判断要因や基準を具体的に定めていることは、既に述べたとおりである。
従って、法一〇条の二第二項一号、一号の二も、「当該森林の周辺地域」又は「当該森林が有する水害防止機能に依存する地域」と関わりが深く、土砂の流出や崩壊等の災害によって重大な被害を受けることが想定される個人の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益として保護する趣旨をも含んでいると解するべきである。

第六　本件予定地の自然の状況
一、南西諸島について
１、南西諸島の概要
南西諸島とは、北緯三〇度五〇分から二四度付近に至る弧状の島嶼の総称であり、鹿児島県側の与論島までの島嶼は薩南諸島、沖縄県側の島嶼は琉球諸島と呼ばれ、薩南諸島は大隅諸島、トカラ列島、奄美諸島に、琉球諸島は沖縄諸島、先島諸島に分けられ、奄美諸島は奄美大島、徳之島、沖永良部島、与論島に分けられる（乙三）。
２、南西諸島の生物相の特色及び重要性
南西諸島、特に奄美諸島以南の奄美諸島及び琉球諸島は、中国大陸起源の古い動植物が遺存的に残っており他では見られない固有種も多い。生物地理上特異な地域であり、生物多様性の観点から極めて重要な地域である。
しかしながら、近年、南西諸島の自然環境は急激に悪化し、憂慮すべき事態となっている。すなわち、環境庁の哺乳類のレッドデータブック選定種中の絶滅種五種のうち一種、絶滅危惧種三種のうち一種が南西諸島産のものである。鳥類に限っていえば、奄美大島以南の南西諸島で記録されたものは二五八種であり、環境庁レッドデータブック選定種による絶滅種一三種のうち五種が過去に生息し、絶滅危惧種二七種のうち一二種、危急種二七種のうち一三種が生息する。
　（なお、レッドデータブックRed　Data　Bookは、一九六六年（昭和四一年）国際自然保護連合（ＩＵＣＮ）が、世界的な規模で絶滅のおそれのある野生動植物をリストアップしたのが最初のもので、その後、世界各国が独自のレッドデータブック作りに乗りだし、日本では、一九八九年（昭和六四、平成元年）環境庁が「緊急に保護を要する動植物の種の選定調査・結果概要」として発表した。環境庁は、絶滅種を「我が国では既に絶滅したと考えられる種または亜種」、絶滅危惧種を「絶滅の危機に瀕している種または亜種」、危急種を「絶滅の危険が増大している種または亜種」と定義している。甲三二）
　このように南西諸島の生物相は、危機的な状況に追い込まれているが、奄美大島、沖縄本島のやんばる地方、西表島には現時点でかろうじて良好な森林が残されており、これら三地域の森林生態系の保全が、今日、生物多様性の観点から極めて重大な課題となっている（甲二〇〜二二、証人杉村乾の証言）。
二、奄美大島について（甲八二〜九六、甲九八〜一二二、証人杉村乾の証言、　検甲五〜一九）
１、奄美大島の概要
　奄美大島は、周囲約五七〇ｋｍ、面積約七一九�屬如�沖縄島、佐渡島に次ぐわが国三目の島である。奄美大島は東北端にある笠利半島を除くと概して山勝ちで海岸線まで山林が迫っている場所が多く平坦地が少ない。気候は島の西側を流れる黒潮の影響で亜熱帯海洋性気候を示し、四季を通じて温暖・多湿であり、年平均降雨量は二、八七一ｍｍに達する日本有数の多雨地域である。
２、奄美大島の生物相の特色及び重要性
　奄美大島は、生物地理学上の旧北区に属するトカラ列島以北の本土地域とは異なり、東洋区に属し、本土とは様相を異にした自然が展開している。
また、奄美大島以南の南西諸島は、一五〇万年前にトカラ海峡が成立した後も（このラインを生物地理上「渡瀬線」という）中国大陸と琉球弧の陸橋で結ばれていたため大陸起源の古い動植物が陸伝いに渡来することができ、また、琉球弧が島になってからは島嶼という限られた環境で残存種が保存された。そのため大陸起源の古い種（中には大陸ではすでに絶滅してしまった種も含まれる）が遺存的に残っており、学問的にも生物多様性の観点からも極めて重要な地域となっている。
　このように奄美大島の自然や生物相が極めて貴重なもので奄美にしか存在せずかけがないのないものである。
３、奄美大島の自然及び野生生物の現状
　奄美大島の自然は、返還後、いわゆる「奄振」による全島あげての開発や大規模な森林伐採等による影響を受け、急速に悪化してしまった。
　すなわち、奄美大島に生息する野生生物のうち、環境庁レッドデータブック選定種による絶滅危惧種は四種、危急種一一種、希少種一八種である。鳥類のアマミヤマシギとオオトラツグミは絶滅危惧種、哺乳類のアマミノクロウサギ、鳥類のルリカケスは危急種である。
４，奄美のかけがないのない自然の保全
　奄美大島は、前記のとおり、生物多様性の観点から極めて重要な地域であり、現時点で良好な森林がかろうじて残されている数少ない場所である。
　このような奄美大島の自然はかけがないのないものであり、奄美諸島の森林生態系及び奄美大島の野生動植物の保全は、今日、日本の多様な生物相を維持する上で極めて重要な課題となっている。
三、龍郷町ゴルフ場予定地（市里原）（検甲二五、三五、三六、甲二八〜二七、　乙一、原告高・常田の証言）について
１、予定地の自然
　奄美大島では、龍郷町と笠利町との間には大きくくびれた箇所があり、くびれ場所は集落と農耕地が存在するため、ここで、龍郷町と笠利町との森林の連続性は遮断されている。本件予定地北部には龍郷町浦地区、屋入地区の集落により森林は途切れている。予定地西側には浦地区から大勝地区が広がり、森林は集落及び農耕地により遮断されている。南西部には太平洋がある。以上から、市里原地域の森林は全体としては周囲の森林と孤立した形態で存在する。
　龍郷町ゴルフ場予定地は、龍郷町東部の海に面した山地に位置し、上戸川など小河川の源流部であって、東側は急傾斜地や断崖が発達している。予定地海側、頂上付近には風衝低灌木林が広がり、頂上から北西部に向かっての植生分布は、丘陵地及び山地の広い部分が南西諸島に共通して見られる常緑広葉樹の二次林であるシイ・カシ萌芽林となっており、次いでリュウキュウマツ群落が斜面上部などの比較的乾性な立地にまとまって分布している。これに対して、オキナワウラジロガシ群落、スダジイやオキナワウラジロガシ等の大径木を混じえたシイ・カシ萌芽林などが認められる。特に、オキナワウラジロガシ群落、大径木・高木を含むシイ・カシ萌芽林は、動物の生息地としても良質な環境を形成している。頂上付近には周囲四〇〇メートル程度の小さな湿地があり、湿地特有の植物群がひろがっている。この地域には大勝地区から、赤尾木地区に抜ける幅一メートル程の、石畳による整備された通路があり、地域では「古じょうご道」を読び、かつては奄美の重要な交通の要所であったが、現在は野鳥の観察者を除いては利用されていない。
　以上のとおり、市里原は、良好な森林に湿地、清流を含む多様な自然環境をなしており、奄美でもこのような環境はほかになく、かけがないのないものである。
２、予定地の動物の生息状況
　龍郷町ゴルフ場予定地には、アマミヤマシギ、ルリカケスをはじめオーストンオオアカゲラ、アカヒゲ、カラスバト等の鳥類が生息している（甲一一、一二、一九）。
　ルリカケスについては、自然状態の営巣例が認められている。
　アマミヤマシギについても、幼鳥が観察されており、予定地内で営巣・繁殖している。市里原はアマミヤマシギと遭遇することができる最も可能性の高い地域であり、アマミヤマシギにとってきわめて重要な棲息場所の一つである。
　別紙図面１（略・平成八年四月二二日付け原告準備書面添付図面１のこと）のＹ点近くの湿地は二〇幅程度の小さな湿原であるが、オットンガエル（検甲二二）、アマミハナサキガエル（検甲二三）、アマミアオガエル、ハロウェルアマガエルなど奄美固有種を始めとして多くの種類のカエルが生息し、中には環境庁レッドデーターブックに取り上げられている種も生息しているほか、奄美固有の昆虫、とりわけトンボ類が多く観察されている。現在、奄美大島には、湿地的環境はほとんど残されておらず、当湿地は貴重なものである。
　また、絶滅が心配されるケナガネズミが観察されているほか、キノボリトカゲ、ヒャン、アカマタや県の天然記念物イボイモリなども生息している。
３、ゴルフ場開発による影響
　龍郷町ゴルフ場予定地は、右のとおり大径木、高木等を含むシイ・カシ萌芽林が含まれており、これらが壮齢照葉樹林としてアマミヤマシギ、ルリカケス等の野生生物に良好な環境をもたらしている。
　ところが、ゴルフ場開発計画では、一三五万五三七二�屬療效呂魍�発し、その計画面積の四八・六％を占める六四万五一六三�屬療效呂魏�変する計画であって、広大な森林を改変・伐採し、そこに棲む野生動物の巣、餌場等を破壊する。残地森林部分も、人間の進入する可能性が高いから、野生動物の巣、避難場所、餌場として機能するものではなく、野生動物の餌となる動植物についても同様である。
　また、湿地についてもゴルフ場開発による埋め立て、森林伐採による水源の枯渇、開業後の農薬の影響などが予想される。
　したがって、右ゴルフ場開発は、ルリカケスやアマミヤマシギ等の野生動物の良好な生息地を破壊するものであり、生息数の減少、ひいては絶滅への道を歩ませるものとなる。
　市里原は、多様な環境からなる奄美では他に例のない貴重な地域であり、また、アマミヤマシギの棲息地として極めて重要である。龍郷町ゴルフ場は、このように代替性のない市里原の自然を破壊しアマミヤマシギをはじめ貴重な動植物の棲息環境を奪うものであることは明らかである。
４、原告らの観察行動
　原告らの観察は通常道路などのルートに沿って移動して行われる。別紙１図面（以下の符号は同別紙中のそれ）のＸＹＺの各ポイントからそれぞれＡＢＣＤの方面にのびる林道などを観察ルートとして観察が進められ、観察時のテーマなどによってはルートから外れるという観察の方法を実施している。
　原告らの観察は、Ｚ―橋から更に北側屋入川下流域の谷筋に広がっている。
四、住用村ゴルフ場予定地（検甲三七、四一、甲二三〜三一、甲八一〜一二二、　乙一、検証調書、証人杉村の証言、原告恵沢・高・常田の証言）について
１、予定地の概要
　住用村ゴルフ場予定地は、奄美大島南東部に位置し名瀬市から約四〇ｋｍの距離にある市の集落から南東に伸びる岬（市崎）の先端部に位置する。そこはかつて放牧地として利用されていた。予定地の面積は約一七〇万�屬任△襦�
　本件ゴルフ場へは現在容易に通行できる道はないが、計画では市集落の西はずれ（検証調書Ｚ地点）まで山腹・森林を切り開いて幅員五・五ｍ以上の取付道路ができる予定になっている。
２、予定地周辺の自然
　住用村ゴルフ場予定地は市崎の先端部に位置し、大部分がススキの原となっており、それを常緑広葉樹林が取り囲んでいる。すなわち、岬の北西側には大浜と呼ばれる入江があり、大浜前の海岸にはさんご礁が広がっている。大浜の背後は凹凸のある丘陵地が広がっており、ハチジョウススキの原となっている。ハチジョウススキの原には低い樹木がまだらに見られ疎林状の部分も見られる。岬の先端部のハチジョウススキの原を取り巻くように岬の根元側にはスダジイを主体とする常緑広葉樹の自然林が展開している。この自然林は直径一ｍを超えるスダジイの大きな木が何本も確認されている。岬から北東側に急峻な海食崖が連続する。住用村ゴルフ場予定地はこのような急峻な海食崖を含んでいる。
　住用村ゴルフ場予定地及びその周辺部の植生は、二次林（常緑広葉樹林）、海岸の風衝低木林、ハチジョウススキ草原など様々なタイプの植生がモザイク状に分布しており、トータルでそれぞれの環境に適した生物の住む多様な生態系を保持している。
３、予定地周辺の動物の生息状況
　住用村ゴルフ場予定地及びその周辺で確認されている動物として注目すべきものとして、アマミノクロウサギ、ケナガネズミ、オーストンオオアカゲラ、アカヒゲ、ルリカケス、、ベニアジサシ、エリグロアジサシ、ズアカアオバト、アカショウビン、サンコウチョウ、ハロウェルアマガエル、アマミアオガエル、オットンガエル、リュウキュウアカガエル、オカヤドカリなどがあげられる。
　殊に、アマミノクロウサギについては、予定地及びその周辺は良好な生息地となっている。すなわち、予定地内及びその周辺の海岸線、尾根筋及び林床等に生息痕(食痕や糞、獣道)を多数確認することができ、また、幼獣の糞も多く見つかり、予定地内で繁殖していることは明らかである。ところで、アマミノクロウサギの良好な環境として高齢級林と若齢級林の組み合わせが指摘されているが、予定地周辺はハチジョウススキの疎林・低木風衝林とそれを取り巻く自然林の組み合わせからなり、まさにアマミノクロウサギにとって良好な環境であり、ススキの原もアマミノクロウサギの餌場として利用されており、相当数（少なくとも十数個体以上）が生息している。また、海岸におけるアマミノクロウサギの生息地は例が少なく、予定地周辺は海岸の生息地としてきわめて重要である。このように予定地周辺は特別天然記念物であるアマミノクロウサギの極めて重要な生息地であり、かけがいのないものである。
　ケナガネズミは、日本産ネズミ類のなかで最大の種で、奄美大島、徳之島、沖縄島にのみ生息する１属１種の固有種であり、大木の樹洞を巣とし、もっぱら樹上で生活するといわれ、現在、奄美大島で最も絶滅が危惧される動物の一つであるが、予定地周辺で観察されている。
４、ゴルフ場による影響
　ゴルフ場開発計画では、一七〇万七四六八�屬療效呂魍�発し、六五一万一四三五�屬療效呂魏�変する計画であって、広大な森林を改変・伐採し、そこに棲む野生動物の巣、餌場等を破壊する。残地森林部分も、人間の進入する可能性が高いから、野生動物の巣、避難場所、餌場として機能するものではなく、野生動物の餌となる動植物についても同様である。
　したがって、右ゴルフ場開発は、アマミノクロウサギ、オーストンオオアカゲラ、ルリカケス等の野生動物の良好な生息地を破壊するものであり、生息数の減少、ひいては絶滅への道を歩ませるものとなる。殊にゴルフ場開発とアマミノクロサギの生息が両立せず、アマミノクロウサギの生息地が破壊されることは明らかにである（甲九八、証人杉村の証言）。なお、鹿児島県文化課が作成したと思われる「住用村のゴルフ場建設計画に係るアマミノクロウサギ等天然記念物の生息状況調査の結果と事業計画の影響評価　県文化財保護審議会名称・天然記念物部会検討資料」（甲九九）は、「住用村市崎アマミノクロウサギ生息分布調査報告書」（甲九八）を基にしているはずだが、予定地がアマミノクロウサギにとって良好な環境ではなくまた、建設工事による影響も重大でないかのような内容となっているが、これは事実をまったく歪曲し黒を白にするもので到底許されるものではない。
　市崎は海岸部におけるアマミノクロウサギの生息地として他にほんとど例がない極めて重要な生息地であり、また、予定地周辺の森林は樹齢も高いオーストノオアカゲラやケナガネズミ等の稀少種を抱く貴重な森林である。
　住用村ゴルフ場は、このように代替性のない市崎の自然を破壊しアマミノクロウサギはじめ貴重な動植物の棲息環境を奪うものであることは明らかである。
５、原告らの観察コース
　予定地及び周辺における原告らの観察コースは、�〇垪蠅梁臧揺婉瓩�ら上陸して観察するコース、�∋圓両�学校裏のコース（検証調書Ｅ地点周辺、市小学校裏手にある山道のコース、この山道が東へむかって伸びており予定地につながっている）、��市の集落の取付道路入口予定地周辺（検証調書Ｚ地点）、�て修離魁璽后文‐敖棺顳愧賄澄腺拊賄澄⇔啼算埓諜彑�の青久へ道路と嘉徳への道路の三叉路にあたるＸ地点から尾根沿いに東へ約八〇〇メートルＹ地点までのコース）である。
　このうち、�，離魁璽垢漏ご澆�ら直接予定地に上陸するもので、海岸付近までススキの原が迫り、アマミノクロウサギの糞が見られ幼獣の糞も多くアマミノクロウサギが繁殖していることがわかる。また海岸にはオカヤドカリが見られる。�△離魁璽垢藁氷イ兵�然林が展開し、原告高、恵沢らが主に鳥類のルート調査を行っており、また、原告高はこの山道を上りゴルフ場予定地境界付近まで観察したこともある。��のコースは市の集落へ向う車道の側になり、原告らは�△離魁璽垢惴�う途中に立ち寄って鳥類等の観察をしている。検証時においてもアマミノクロウサギの糞が見られ、取付道路周辺にアマミノクロウサギが生息していることが確められた。�い離魁璽垢藁氷イ兵�然林が展開し、鳥類が多く見られ、また、アマミノクロサギの糞や獣道など生活痕も多く見られる。原告・野上はＹ地点よりさらに東へ予定地の間近まで入りアマミノクロウサギの観察をしていた。
五、原告名を冠した動物について
１、アマミノクロウサギ（検甲一、四二、四三、甲三二頁、三七）
　哺乳動物の分類では、ウサギ目、ウサギ科、アマミノクロウサギ属に分類されている。木の根元などに穴を掘って巣穴を持ち、巣穴で出産する。毛色が黒っぽく、体重二・五�圓曚匹任△襦７螢Ε汽�の特徴として、耳が約四�諭�尾が一一ないし三五mmと小さく、足も短いが、爪は大きく強力である。夜行性で、しばしば、「ピューイィ、ピューイィ」と鳴く。これらの特徴から、学者によっては、ウサギ科をウサギ亜科とムカシウサギ亜科に分類し、アマミノクロウサギをムカシウサギ亜科としている。ムカシウサギ亜科は、始新世後紀に繁栄したが、現在は、ウサギ科にとって代わられている。ムカシウサギ亜科は、いずれも絶滅が心配されている。
　世界中でも奄美大島と徳之島にのみ生息し、国際自然保護連合（ＩＵＣＮ）のレッドデータブック（一九九〇年）では絶滅危惧種に指定されている。日本の哺乳類の中では、世界的にみて最も貴重な種の一つで、しばしば「生きた化石」として紹介される。
　大正一〇年三月三日、当時の「史跡名勝天然記念物保存法」に基づき、内務省告示第三八号により「所在地　鹿児島県奄美大島・徳之島（地域を定めず指定したものである。）」として、わが国で最初の「天然記念物」に指定され、昭和二五年成立した文化財保護法下でも「天然記念物」に指定され、さらに、昭和三八年七月四日、文部大臣により、「特別天然記念物」（文化財保護法六九条二項）に指定され、現在に至っている。なお、現在のところ、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律（以下「種の保存法」という。）にいう国内希少野生動植物種（四条三項。その個体が本邦に生息し又は生育する絶滅のおそれのある野生動植物の種であって、政令で定めるもの）には指定されていない。
２、オオトラツグミ（学名トゥルドゥス・ダウマ・アマミ。検甲二、四〇、　甲三二、八二、八四）
　昭和四六年五月一九日、文部大臣により、天然記念物（同条一項）に指定され、現在に至っている。種の保存法により、国内希少野生動植物種（四条三項）に指定されている（同法施行令一条一項別表第一表一の（一二）すずめ目ひたき科）。世界で一〇〇羽くらいしかいないと言われており、非常に貴重なものである。
３、ルリカケス（学名ガルルルス・リドティ。検甲四、三〇、甲三二、八三）
　大正一〇年三月三日、「天然記念物」に指定され、昭和二五年成立した文化財保護法下でも「天然記念物」に指定されて、現在に至り、種の保存法では、国内希少野生動植物種（四条三項）に指定されている（同法施行令一条一項別表第一表一の（一二）すずめ目からす科）。繁殖期、非繁殖期ともに高齢照葉樹林を生息場所として選好しており、若齢照葉樹林のような環境は好適な環境ではないと考えられている。
４、アマミヤマシギ（学名スコロパクス・ミラ。検甲三、二九、甲三二）
　種の保存法により、国内希少野生動植物種（四条三項）に指定されている（同法施行令一条一項別表第一表一の（八）ちどり目しぎ科）。
　基本的な生態は把握されていないが、照葉樹林に適応して進化してきた種と思われ、森林の伐採は生息状況に影響を与えているとする考え方もあり、また、壮齢照葉樹林の環境が現在好適な生息環境の一つであるともされている。したがって、両鳥ともに、生態維持のためには特に高齢（壮齢）照葉樹林を保全していく必要がある。

第七　原告等と奄美の森との関係性
一　原告常田守（甲第一六〇号証、本人調書）
１ 原告常田は、奄美の森において、野生動植物の生態をテーマとして、長期間にわたり、真摯にフィールド・ワークを継続してきた。原告常田が、奄美大島においてフィールド・ワークを開始したのは、一九八〇年八月のことであり、すでに一七年間も観察活動を続けてきた。
原告常田のテーマは、鳥類を中心とする動物個体の分布パターン、個体の生活史（採餌、交信、配偶、営巣、繁殖、成熟年齢、繁殖回数、死亡年齢）とその個体的変異、動物社会の多様性とその生態的条件、生物の種間関係などに及び、このようなテーマの追求を通じて、動物の行動の実態・その意味、他の生物（種乃至地域個体群）との相互関連、非生物的環境（ことに水分循環）との関連を把握することを目的としてきた。
原告常田は、例えば以下のような視点をもって、鳥類の個体観察を行ってきた。
　　採餌　どのような餌をどのような場所でどのような方法でとっているか
　　 採餌方法と鳥の形態（たとえばくちばしの形態との関連）
　 　餌の種類と季節的、地域的変化、餌となる動植物の生態と環境との　　　　　関係
　　　交信　さえずりと地鳴きの種類と意味 威嚇行動とその種類
　　　配偶　ディスプレイとその種類、使い分けの意味、交尾時間と回数
　　　営巣 営巣場所、巣の形・大きさ・素材
　　　繁殖 繁殖期、卵の数、抱卵期間、雛の数、巣立ちまでの期間　親鳥が雛に餌を運ぶ頻度、育てに当たっての雄と雌の役割分担、ヘルパーの行動
　　　　　　親が雛に餌を与える回数と与え方、雛の糞を捨てる回数とその場所
　　　　　　幼鳥の成長に伴う形態的変化
　休息 どこで眠るか、その季節的変化
　　　移動　季節による地域的移動とそのルート、移動の意味
などである。
原告常田のフィールドワークは、鳥類をはじめとする動物とその行動を観察・記述することだけではなく、そのひとつひとつの行動や生態を規定する環境的要因との関連性、その連鎖を探ることを目的としてきた。また、これらの行動に、個体や地域個体群による変化や変異がある場合には、これらを規定する原因を継続的観察により発見しようとしてきた。また、原告常田は、各種ごとにその特性に応じた、また、時宜に応じた観察テーマを、観念的にではなく、フィールドで発見し、フィールドでの観察を通じて追求してきた。
さらに、原告常田は、当該フィールドに合わせて信頼に足りる科学的手法を創造してきた。後述するとおり大学や研究機関に重要な科学的情報を提供し続けてきたこと、環境庁をはじめとする行政機関にも生物多様性に関する多くの情報を提供したこと、マス・メディアの科学プログラムにも情報を提供し番組作成に寄与したことからも、原告のフィールドワークの手法がきわめて信頼性の高いものであることが裏付けられる。
　他方、原告常田は、フィールド・ワークを行うにあたって、そのフィールド・ワークが自然環境に対して与える影響について厳密にチェックし、常にその方法を自制してきた。すなわち、原告常田は、観察者を侵入者と規定し、当該種、当該地域個体群、当該個体ごとに、地域に応じて、観察者の影響を最小にする方法を模索、工夫、選択し、採集は絶対に行わなず、生物の自然な生活状態をできる限り尊重しながら、その生態と環境との関連性を観察のみによって把握しようとつとめてきた。このようなフィールド・ワークの方法は、観察の科学的信頼性を高めることに寄与してきたのである。
原告常田は、当該開発対象予定地域である奄美の森において、文化財保護法の特別天然記念物、天然記念物、種の保存法における絶滅危惧種等にそれぞれ指定されている動植物が多く生息していることを確認している。原告常田のフィールド・ワークは、その生物種に属する個体及び地域個体群の行動を明らかにすることによって、奄美という生態学的に特殊な地域の生物のあり方（動物多様性の生態的規定要因）をも明らかにしようとしてきた。
２　原告常田は、フィールド・ワークを通じて、自己の自然科学的認識を深め、その情報を公開することにより地域生態系の保全・生物多様性の保護という社会的価値に深く寄与してきた。
原告常田は、フィールド・ワークを続けることで、生物多様性とは、多くの生物がともにあってそれぞれが生き、生かされている関係にあることを実感した。そして、人間もまた自然の中にあって自然との関わりにおいて存在しうること、人間同士の関係も自然との関わりの中で成り立つことを精神的深みおいてとらえことが可能となった。
原告常田は、すべての生命が奄美の生態系と関連し合っていることを認識し、人間を含めて、すべての生物が生かし生かされていること・奄美の生態系が奄美を巡る人々の生物学的・精神的存在基盤であるという自然観・人間観に至っている。
　このような原告常田の営為は、自然と社会を体験し、教育を受け、労働し、書物を読み、思索し、これらの営為を通じて自己を精神的に深化させるという人間にもっとも根源的過程に係わるものであり、人間の内心的価値・精神的自由の領域に属するものである。奄美の自然は、原告等の精神性の必要不可欠の場であり契機である。そして、原告常田の観察対象の一部分であり、観察フィールドでもある本件開発対象地域の森は、原告の精神過程をも形成する。
３　このようなフィールドワークの結果得られた知見は、生物群集の多様性・動物社会の様式やその多様性・個体や個体群の多様性を規定する要因を明らかにして、生物多様性の保全のための政策や技術を得るのに不可欠である。
例えば、原告常田は、大学や研究期間の研究者に生物多様性に関する科学的情報を提供してきた。大学や公的研究機関に属する研究者が実際に原告常田のような周到で継続的なフィールド・ワークを行うことは困難であり、原告の活動は奄美の生物学、生態学的研究にとり代替不可能にして不可欠のものであり、原告は決定的に重要なインフォーマントとしての役割をも担っている。原告常田の氏名が協力者として記載され、あるいは、原告常田への謝辞が掲載されている学術論文は、既に紹介したように多数存在する。さらに、原告常田は、海外の鳥類研究者や野鳥観察家にも情報を提供している。
　また、原告常田は、マス・メディア、ことにテレビの科学プログラムの作成に協力し、生物多様性に関する知識の普及に寄与してきた。
他にも、原告常田には、多数の著書あるいは写真を提供した書物が存在する（甲第一六一号証乃至一六四号証）。
４　以上の通り、原告常田は、本件各ゴルフ場予定地を含む奄美の自然と密接な結びつきを有し、人格的利益を有する。
　　また、フィールド・ワークを通じて、ゴルフ場開発による災害にみまわれる可能性も否定できない。

二　原告野上貴久子（甲第一〇四号証、本人調書）
　１　原告野上は、一九六〇年一月一日に長崎県内で生まれ、父親の転勤にあわせて九州北部を何度か転居した。結婚後、夫の転勤にあわせて転居していた。奄美大島には一九八九年三月ころから居住するようになり、一九九五年二月末に転居して奄美大島を出て、現在に至っている。
２　原告野上の原体験
　原告野上は、小学校低学年ころに、長崎県西彼杵郡大瀬戸町で育ったが、当時の環境は背後に山を控えて、自宅が海に面し、近所には小川があるという非常に恵まれたものであった。原告野上にとっては、これらの自然環境が遊び場であり、海に行っては、ゴンズイ、カメノテ、タツノオトシゴ、カブトガニ、エイ、などを見ることを楽しみとし、山に行っては、ノビル、イチゴ、ヤマブドウなどの食べられる植物を探すことを楽しみにしていた。原告は、毎日なわばりをめぐるように、自分の遊び場をめぐっていた。この時期の体験が原告の自然への愛情の原体験となってるのであるが、原告が二〇歳ころ、この地に戻ってみると、海岸には火力発電所、総合運動場などが建設され、彼女が幼いころに育った風景とは異なったものとなっていた。
３　一九八九年三月、夫の転勤に伴い奄美大島名瀬市内に転居し、以後、一九八五年二月まで奄美に居住した。原告は、奄美大島の固有の文化に興味を持った。奄美大島の集落の多くは後ろに山が展開し、前には海が展開する構造となり、このような環境の中で奄美独特の信仰、文化が展開した。琉球王朝の影響を受け、ネリヤカナヤの信仰（沖縄ではニライカナイ）があるなど、海や山がテーマとなった祭りも多くあった。原告は奄美の文化に深い関心持ち、文献を調べ、講演会などにも積極的に出席した。奄美の文化を知れば知るほど、原告は奄美に広がる自然と人間とが濃密に凝縮された世界に関心が深まっていった。
４　原告は、一九八九年三月ころから奄美大島に居住するようになって、すぐにスクーバダイビングのライセンセスをとり、同年夏からはダイビングを始めた。原告は、最初のころは奄美の海の美しさにただ感動するのみであったが、徐々に本当にきれいな海とそうでない海との違いがあることが分かってきた。
　かつて奄美の海は水を感じないほどの透明度があった。経験あるダイバーからは、十数年前には四〇メートルぐらいまで見ることができたということも聞いていた。しかし、現在奄美の海は島の開発によって流出した赤土などにより、汚されている場所も少なくない。
　スクーバダイビングにより、原告は、様々な野生生物との出会いを体験した。一九九〇年夏、徳の島の写真家とともに、徳の島の海を潜った際に、コブシメという比較的大型のイカの産卵に遭遇した。触手で一つ一つの卵を産む場所をさぐり、ピンポン球よりやや小さい美しい卵を、サンゴの隙間に産みつけて、離れていくさまは野生生物の生の営みを感じさせる神秘的な体験であった。
　ところが、少し前に産みつけられた卵はすでに赤土に覆われていた。卵は呼吸できない様子で、すでに茶色になっており、これでは生まれてもこれないだろうということが分かった。赤土が流れなければ全て生まれるのだと感じ、「魚の湧く海」というのを駄目にしているのが人間であると思った時から原告の自然への見方が変化していった。つまり、本当にきれいな海とそうでない海との違いがあることが分かってきたのである。赤土は海に出てすぐに沈んでいき、沿岸部の珊瑚礁を中心に多くの動植物を死滅させる。奄美の開発がこのままで放置されれば奄美の海は何も生まない海になるというのが原告の実感である。原告は陸から海を眺めているのと、海から見るのとでは異なった感じを受け、自然を踏み荒らす人間の行いの理不尽さが分かってきたという。
　原告は、当初生き物を見たくて海に潜り、さらにそこから奄美の海が人間行いによりけがされていくことが分かってきた。原告は、荒らされる奄美の海のために、その汚染源を求めて、川をたどるようになった。奄美の山や川では河川改修、農地開発、森林伐採が行われて、それらの開発現場あるいは開発のために取り付けられる林道が、奄美の雨に洗われて赤土が流出している。特に奄美の場合、雨が多く、谷が荒れやすい。
　こうして、原告は、奄美の人間と自然とが抱えている問題点を徐々に理解していったのである。
５　一九九一年、原告は、奄美野鳥の会主催の早朝観察会に初めて参加し、市里原の本件ゴルフ場予定地を観察した。夜明けに多くの野鳥が鳴きはじめて、森全体が一時に息づく様に原告は深い感動を覚えた。この観察会をきっかけに原告野上の野鳥観察が始まり、さらに原告常田と知り合い、鳥の話したり、観察を始めた。
　一九九二年には哺乳類研究会に入って、奄美の自然の観察を続けた。リュウキュウイノシシ、アマミノクロウサギ、トゲネズミ、ケナガネズミなども観察している。ケナガネズミは樹上生活をするネズミで我国最大のネズミである。絶滅が危惧されており、観察されること自体がまれなのであるが、原告はこれを観察する機会にめぐまれ、木の上を走り回る大きなネズミに感動した。ケナガネズミの交尾の場面に遭遇でき、その観察記録は奄美哺乳類研究会発行の機関誌「チリモス」に掲載されている。
　チリモスは奄美の野生生物研究の重要な資料として高く評価されており、多くの学術論文に引用されている（甲第一〇五乃至一〇九号証）。
６　原告は、奄美哺乳類研究会に入会し、島の古老から野生生物の昔話を聞き取りを始めた。特にジュゴンのことを中心に聞き取りをした。奄美ではジュゴンのことを「ザン」と呼び、記録や聞き取りから奄美では一九六〇年代までジュゴンが生息していたことが判明した。ジュゴンを祭った神社もあった。「ザンの岩」と呼ばれる岩などもあり、そのうちの一つにはザンが手をついた跡があったという。また、奄美の貝塚からもジュゴンの骨が多数出土する。ジュゴンは汽水域のアマモが多く繁茂する場所に生息していたのであるが、現在ではジュゴンの生息域は埋め立てられたり、開発が進んで存在しない。
７　奄美大島の集落は「しま」と呼ばれ、多くは前面に海が、背後に山が広がる。奄美の人々にとって前面と背後に広がる自然は日常生活や信仰の拠り所でもある。しかし、奄美大島の基幹産業は公共工事であると言われるほど、奄美大島では土木工事が盛んで、海岸や河川は防潮堤、道路、護岸改修などにより自然を失いつつある。原告が人口の海岸で老人が転倒して怪我をするという事故のことを聞き及びこうした工事のことを気にかけていたため、護岸工事をしている青年にこの工事は奄美には似つかわしくないのではないかと尋ねてみたところ、「僕もやりたくない」と言っていたことがある。
　奄美大島では林業も盛んであるが、近時はパルプチップを生産するために皆伐が進められている。大規模な皆伐や皆伐のための林道建設により森林が失われる外、表土が流出し赤土となって海を汚濁している。大島だけでもパルプチップ工場が六カ所あり、腕ぐらいほどの太さの木でも切り倒されている。また、森林伐採により森林の乾燥化を招き、樹木が枯れあがってしますところも少なくない。
　本件各ゴルフ場開発はこのような奄美の自然破壊が進んだところに、バブル経済の開発ブームを背景に持ち上がった事業なのであるが、すでで破壊が進んでいる奄美の実情に心を傷めている原告にとっては、これらのゴルフ場開発は、奄美の自然にさらに大きな負荷を与えるものであって、許せないものと考えられた。
８　龍郷町ゴルフ場
　一九九一年に初めて野鳥の観察会に参加して以来、原告は野鳥の会の人々とともに奄美の森林を多く観察している。龍郷町ゴルフ場予定地は、原告が初めて野鳥観察の機会を持った土地でもある。この土地は龍郷町市理原という地名であるが、野鳥が豊富に生息する土地として、研究者や野鳥観察家の間では有名な土地である。原告にとっても、本件予定地は重要な活動フィールドであって、甲第一一及び第一五号証の地図で示された観察ルートは何度なく観察にでかけているし、時にはルートからはみ出て観察を続けることもあった。
　原告は、市理原の森で夜明けの鳥たちの目覚めの中にあって、その多さに市理原は鳥の森であると実感している。市理原では鳥が自分を追いかけるという体験をしている。これはおそらく混群と言われる、様々の種の幼鳥が群れる現象があり、その中にいたのではないかと考えられるが、原告の息をしてもどこかに行ってしまいそうな程の距離に、コゲラ、シジュウゲラが何羽も止まって首を傾げて原告を見つめ、原告の移動にあわせて鳥たちがついてきたのである。市理原であアマミヤマシギの親子連れで、親が子を守るために犠態を確認したり、オットンガエル、ハロウェルアマガエルなど鳥の外にも多くの希少野生生物を観察している。
　また、原告は、市里原の森にまつわる伝承を調査したり、伝承の由来となるオキナワウラジロガシやガジュマルなどの群落の観察を行ったりしている。かつて村人が利用していた炭焼き窯のあとや、村人が薬湯の入浴場ととして利用されていた場所などの調査を行っている。
９　住用村ゴルフ場
　住用村ゴルフ場周辺部は、奄美でも自然度の高い森林が広がっているため原告にとっても重要な観察場所となっている。甲第一三及び第一七号証で示されたルートに沿って、何度となく本件ゴルフ場予定地付近の観察を重ねている。但し、甲第一三及び第一七号証添付の図面、Ｅ−Ｆルートは入ったことはない。本件開発予定地内においても、かつては観察を行ったことがある。本件ゴルフ場予定地及び周辺部は、良好な二次林であり、アマミノクロウサギが多数生息する場所である。原告は、本件ゴルフ場予定地内及び周辺部でアアミのクロウサギを何度か目撃している。ゴルフ場開発予定地周辺部ではあるが、オオトラツグミも目撃し、トゲネズミは林道わきをピョンピョン跳ねていた。ケナガネズミは声だけの観察に止まっているが、原告は本件ゴルフ場予定地内にも生息する可能性が高いと考えている。
　一九九二年三月三一日、住用村ゴルフ場開発許可が承認されたことを知った。この時に、知人からアマミノクロウサギの生息地であることを聞いて、四月の始め、ウサギの観察にでかけた。この観察により、ウサギの生息を確認し、このことがマスコミの取り上げるところとなり、それまで、クロウサギの生息を否定していた県も否定できなくなった。
　尚、原告は、本件ゴルフ場予定地内に海から上陸して観察したこともある。その際に、大量のウサギの糞も確認している。また、住用ゴルフ場進入路付近も観察したことがある。
　以上の通り、原告も、本件各ゴルフ場予定地と密接な結びつきを有し、人格的利益を有する。ゴルフ場開発による災害にみまわれる可能性も否定できない。

三　原告高美喜男（甲第九七号証、本人調書）
１　原告は、大島郡笠利町で生まれ、奄美の自然の中で育ち、高校卒業とともに奄美を離れたが、昭和四九年、奄美大島に帰り、昭和六一年九月ごろから野鳥観察に親しむようになった。そのきっかけは、探鳥会で見たアカハラダカの渡りに感動したからである。
　以後、原告は、独学で奄美大島全域にわたって毎朝夜明前に野鳥観察を行い、河川、各離島の野鳥の分布を記録する観察活動を続け、島内の固有種はほぼ観察するに至った。
２　昭和六二年には、日本野鳥の会に入会し、昭和六三年には原告常田とともに奄美野鳥の会を結成した（甲第四三号証乃至四八号証）。そして、国民向けの探鳥会を実施したり、奄美博物館と提携して、二箇月に一回の割合で野鳥の学習会を実施している。
　 同原告は、環境ネットワーク奄美にも所属しており、同団体の一員としても奄美の自然保護活動をしている。
３　平成五年には、環境庁の委託調査に参加協力し、平成六年からは、林野庁の委託を受けて、「希少野生動植物種保護管理事業」の一環として、ルリカケス、アマミヤマシギ、オーストンオオアカゲラ、オオトラツグミを対象にした森林巡視活動を行っている（甲第八九号証乃至九二号証）。
原告は、こうした活動によって知り合った研究者らに情報を提供し足りもしていょ@
４ 原告は、この頃からは、野鳥の基礎的なデータの集積が必要であると感じ、奄美大島の中に一〇個所程度フィールドワークの場を設け、ルートセンサスと言う方法で継続的な観察を行うようになった。
５　原告は、自ら会社を設立して、エコツアーを事業化したり、野鳥に関する講師を務めたりもしている。
これは、当初原告は、野鳥観察の案内等を無償で行っていたのであるが、希望者も増え、無償では成り立たなくなったため、金銭を得る代わりに、責任をもって案内を行うことが必要だと考えたからである。しかも、有償による場合には、会社組織による方が良いと判断したことから、会社設立に至ったのである。
エコツアーも、自然保護があって初めて成り立つものであるから、多くの人に参加してもらうことを考えておらず、自然との調和を考えた奄美型のツアーを模索しているところであょ@
６　同原告は、ゴルフ場開発予定地及びその周辺地域の野鳥の生息状況についても、本格的な調査観察活動をしており（甲第一一乃至一四号証）、住用村ゴルフ場開発予定地及びその周辺地域での野鳥の観察をしている間に、アマミノクロウサギ、その死体、フンなどを観察している。
７ 以上のように、奄美の自然は、同原告にとって、生活の糧にもなっており、なくてはならないものである。
８　また、住用村ゴルフ場開発予定地及びその周辺地域においては、同原告は学校裏側から沢に沿ったルートを観察し、その際には取付進入路予定地も観察しているところ、このような場所には急激な傾斜地も多く、開発によって土砂の流出、崩壊等を招く可能性が高い。同原告は、たびたび右記場所で観察を行っているのであるから、災害に遭う可能性も高い。

四 原告恵沢岩生（本人調書）
１　同原告は、昭和六〇年名瀬市内に戻り、原告常田に誘われて奄美野鳥の会が主催する探鳥会に参加するようになって、鳥類の観察を行うようになった。それ以降、自動車に乗って野鳥の観察に出かける生活が始まった。
２　平成三年には奄美野鳥の会に入会し、本格的にテーマを持って観察をするようになった。
春には、渡り鳥のシーズンであることから、干潟や田園地帯でシギやチドリ類を観察した。夏には、繁殖のシーズンであることから、野鳥の巣作りの様子を観察するため、山に入ることが多い。秋には、タカの渡りが始まるため、山の高台に出かけることが多くなり、冬には、渡り鳥の越冬の観察のため、干潟等でカモ類を中心に観察するのである。
夜間においても、一年を通じてフィールドに出かけ、アマミヤマシギなどの夜行性の鳥類等を観察していｏ@
３　平成五年八月から、奄美野鳥の会の事務局長となり、機関誌「アマミヤマシギ」（甲第四九号証乃至六一号証）を編集し、国民向けの探鳥会等を主催したりしている。
　平成六年からは、林野庁の委託を受けて、「希少野生動植物種保護管理事業」に基づく、森林巡視を兼ねた国有林の調査を実施している。
　 同原告は、環境ネットワーク奄美にも所属しており、活動を行っている。
４　また、同原告は、本件各ゴルフ場開発予定地及びその周辺地域にしばしば出かけ、野鳥や奄美の自然の観察に多くの時間を費やしている（甲第一五号証乃至一八号証）。
５　このように、奄美大島の自然は、原告恵沢にとっても、人格上も生活上もなくてはならない存在になっている。
６ 同原告は、住用村ゴルフ場開発予定地及びその周辺地域にしばしば出掛け、野鳥等の観察を行っているため、他の原告と同様災害に遭う可能性が高い。

（第二部）
第一、環境訴訟における団体の原告適格について
　一、団体の原告適格をめぐる学説と判例
　（一）はじめに
　　　　わが国の訴訟法上、団体の取り扱いについてみると、法人格を有する団体は当然に当事者能力が認められ、また、法人でない団体であっても、代表者又は管理人の定めがある団体については、いわゆる権利能力なき社団として当事者能力が認められている（新民訴法二九条、旧民訴法四六条）。
　　　　ところが、当事者能力が認められる権利能力なき団体につき、行政訴訟事件での当事者適格が認められるかについては、これまでのわが国の伝統的な行政訴訟理論では、行政法上の権利・法律的利益が帰属する個々人にのみに原告適格を認め、それ以外の者の原告適格を異常なほどに厳しく制限してきている。
　　　　すなわち、わが国の先例は、団体の原告適格が問題となる場合にも、団体ないし団体の利益を、構成員個々人に分解し、主観的権利侵害ないしその蓋然性がある個人のみが原告適格を有するとの解釈を固執し続けている。
　　　　他方、周知のとおり、ドイツ、アメリカ等では、一定の条件のもとではあるが環境保護に関する行政訴訟で団体の原告適格を認めるに至っている。これら諸外国における団体の原告適格肯認の流れは、環境問題をはじめととする現代の行政の多様化と複雑化につれて、法的紛争の大規模化、長期化が日常的になった厳然たる事実をふまえ、情報収集・交渉能力、訴訟費用負担などに対する配慮から、一定の要件のもとに環境保護団体の原告適格を認めるに至っているのである。このような諸外国における団体の原告適格拡大を実現してきた過程をみると、アメリカの判例法形成、ドイツの制定法とその実現の手法に違いがみられる。しかし、団体の原告適格拡大の必要性は、司法の果たすべき法的紛争機能の確保からみて、不特定多数の市民が享受している自然環境についての利益が、市民個人を原告とする訴訟によっては十全に保全できず、十分な専門知識をもった環境保護団体を原告としてほうが適切な結果が期待できるという一致した認識から出発している。
　　　　このような団体の当事者適格を認めるべきか否かにかかわる背景事実、すなわち、現代の行政の多様化と複雑化、それに伴う行政作用の効果、影響の人的物的範囲の拡大、法的紛争の大規模化、長期化が日常的になっている現状、法的紛争解決における情報収集・交渉能力、訴訟費用負担などに対する配慮の必要性、法的紛争解決過程で団体が果たしている機能などの事情は、わが国と前記諸外国との間に相異はない。
　　　　実際に、わが国でも、「特定非営利活動促進法（ＮＰＯ法）」が施行されるなど環境保護団体に当事者適格を認めるための条件が整えられつつある。ちなみに、同法は、「特定非営利活動を行う団体に法人格を付与すること等により、ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し、もって公益の増進に寄与する事を目的とする」（同法一条）とその目的を定めているが、立法事実としても、既に環境保護団体をはじめとする多くの団体が、社会的に評価しうる活動を積み重ねてきているとの認識を前提とすることはいうまでもない。
　　　　このような動きに照らし、現状からみれば、本件の環境ネットワーク奄美のような環境保護団体には、問題のゴルフ場開発を目的とする森地開発許可処分の取消訴訟の原告適格が認められなければならない。
　（二）環境訴訟に関する団体の原告適格とわが国の判例
　　　　わが国の判例は、地域の環境に対する利益や義務を、個々の国民・住民に分解して、個人の主観的権利侵害がある場合にのみ原告適格を認める立場をとっている。たとえば、地域の環境を整備し、構成員の住居生活の円滑を図るという団体結成目的を有する地域住民団体・協議会がボーリング場建設に反対し、建築物の確認処分取消を求めた抗告訴訟において、団体の当事者能力は認めたものの原告適格を否定した（東京地判昭四八年一一月六日、行裁例集二四巻一一号一一九一頁）。
　　　　その理由は、
　　　１　自然人とは異なって何らの生理的機能を持たない団体である原告は、居住環境の保護による利益を自ら直接享受することのできる主体ではない。
　　　２　当該団体が掲げる目的にそわない事態が発生することによって、直ちに当該団体の結成の目的が阻害されたり、存立の根拠が失われるとは解されず、また、そのような事態の発生それ自体が団体である原告ら固有の権利ないし法律上の利益の侵害に当たるとは認めがたい。
　　　３　当該団体は、団体固有の権利または法的に保護された利益が侵害されることを主張しない。
　　　　また、伊場遺跡の史跡指定解除処分を争った伊場遺跡保存訴訟（静岡地判昭和五四年三月一三日、判例時報九四一号三五頁。最判平成元年六月二〇日判例時報一三三四号二〇一頁）でも、「伊場遺跡を守る会」や学術研究会の団体代表者による代表的出訴資格については、
　　　４　「現行法上、これらの者に文化財の指定解除処分の取消訴訟につきいわゆる代表的出訴資格を認めたと解し得べき規定は存在しない」として原告適格を否定した（静岡地判昭和五四年三月一三日、判例時報九四一号三五頁）。
　　　　このように、わが国では、環境保護訴訟において権利能力なき団体について原告適格が認められた例はなく、その否定の理由は前記１ないし４に集約される。
　　　　ただし、豊前火力発電所事件（最判昭和六〇年一二月二〇日判例時報一一八一号七七頁）は、地域住民の代表者による原告適格（訴訟追行権）について、「法律の規定により第三者が当然に訴訟負追行権を有する法定訴訟の場合に該当しないのみならず、記録上右地域の住民からの授権があったことが認められない以上・・自己の固有の請求権によらず所論のような地域住民の代表として本件差止等請求訴訟を追行しうる資格に欠けるものというべきである」と判旨したが、「記録上右地域の住民からの授権があったことが認められ」る場合には訴訟追行権が認められる余地を残している。
　（三）諸外国の事情と学説
　　　１　アメリカの裁判例
　　　　　アメリカでは、一九六〇年代から、環境保護に関する紛争解決のために司法への期待が高まり、下級審レベルで当事者適格の弾力的運用が積み重ねられていた。そのような動きは、次のような事情を背景としていた。
　　　　　従来の個人の財産等に関する伝統的紛争は、主に過去の不利益回復を目的とし、その権利や利益が帰属する当事者間の個別的解決で足りた。ところが、環境紛争では、将来生じる影響を含め、問題の利益が不特定多数の市民によって共同で享受されていることから、裁判所の判断においても、そのような多数の市民が当該利益に関係していることを無視することはできないこと、また、判決も訴訟当事者以外の市民の権益に影響を及ぼすが、その市民のなかでより強い影響（損害）をうける個人が、必ずしも適切な当事者であるとはかぎらないこと（たとえば、公有水面埋立の事例で漁業権補償を取得することで満足する市民など）といった背景がある。
　　　　　そうすると、裁判所としても、当該の紛争の解決にとって、そのような利益の多数共同享受者の中から誰を適切な訴訟当事者とみるべきかに関心を持たざるを得なくなり、その場合には権利・利益の帰属主体が誰か、その程度がどうかということとは異なった基準を探ることが必要になってくる。
　　　　　このような背景のもとで、六〇年代のアメリカでは、多くの判決が、新しい環境紛争訴訟を解決するために、その紛争解決に適した訴訟当事者を選ぶよう努力する立場を採るようになったのである。しかし、このような考え方に立ちつつも、司法政策として、利益享受者のすべてに当事者適格を認めることは必ずしも適切ではない、何らかの基準が必要であるとの姿勢は維持されたのである。
　　　　　そこで、その基準として、当該当事者が利益を享受している者であるか、当該の当事者がそれ以前の紛争解決活動に関与していたかどうかが検討され、団体については、当該紛争についてその団体が紛争解決行動の実績を有するかどうか、訴訟運営の適切さを保障するかどうかが吟味されることとなったのである。
　　　（ミネラルキング事件と団体当事者適格）
　　　　　このような状況の中で、本訴訟でたびたび引用しているミネラルキング事件の連邦最高裁判決（一九七二年）は、環境保護訴訟における団体の原告適格についても、その後の裁判実務に大きな影響を及ぼした。
　　　　　既に主張したとおり、この判決の多数意見は、当事者適格の基礎となる「事実上の不利益」について、国立公園の景観、自然および歴史的存在、および野生の生活を破壊、あるいはこれらに悪影響を与え、将来の世代がこの公園の自然環境を享受することが妨げられるといった「不利益」が、当事者適格の基礎となる「事実上の不利益」に該当することを認めた。
　　　　　しかし、この判決は、そのような不利益は、実際に当該公園などを利用する人々によってのみ直接的な不利益と感じられ、またこの人々にとってのみ、当該地域の審美的および保養上の価値は、問題の開発によって減少するとした。この結果、この判決は、訴訟当事者であるシエラクラブは、「それ自身またはその構成員が、この開発計画によって、その活動面でいかなる影響を受けるのか」を主張していないとして、シエラクラブの当事者適格を否定した。
　　　　　また、この判決は、環境問題に対する単なる関心は、それがいかに長期間にわたり、いかに特定団体がその問題を取り扱うのに適していたとしても、そのこと自体では「事実上の不利益」をうける主体にはなり得ないこと、そのような良心的な特別の関心をもった団体に当事者適格を認めるとすれば、同様に良心的で特別の関心を持ったいかなる個人にも、また当事者適格を認めざるを得なくなると判旨した。
　　　　　このことから、結局、この判決は「団体もしくはその構成員」の不利益を受けるか否かを団体の当事者適格認定の基準としたものの、原則としては、構成員の不利益の有無を団体に当事者適格の判断基準とするものとなった。つまり、この判決の多数意見は、同時に、問題となっている自然環境をめぐる保護活動、具体的な侵害に対する紛争解決活動などによって形成される利益は、団体の「独自の不利益」の基礎とはなり得ないとしている。このため、団体の独自の不利益を特定することは著しく困難となり、結果として、構成員の独自の不利益に還元されてしまうことになる。
　　　　　実際、この判決以降の事例では、原則として、その構成員の不利益の有無を主たる基準として団体の当事者適格が判断されるようになってきている。
　　　　　但し、前記のとおり、アメリカ判例法では、個人の不利益の有無の判断について、当事者適格の基礎となる個人の「不利益」として「事実上の不利益」をも「個人の不利益」として認めることから、団体がその活動によって実現しようとする「公益」をも広く個人の「私益」と評価しうるものであり、かつ、このような個人の「私益」が不利益となる場合には「構成員の不利益」があるとして、当該個人が属する団体の原告適格が認められることとなる。（以上の参考資料　伊刀�叩嵎胴颪砲�ける当事者適格理論発展の一側面（一）」民商八一巻六号、「同（二・完」同八二巻一号）。
　　　２　ドイツにおける団体訴訟
　　　　　ドイツ連邦自然保護法（一九七六年）は、二九条で予め承認を受けた団体が、自然保護に関する行政に参加し意見を述べることができると定めてはいたが、行政事件手続法は団体自身が一般的に行政訴訟の当事者適格を有することまでは認めていなかった。
　　　　　しかし、ブレーメン州（一九七八年）、ヘッセン州（一九七九年）は、さらに具体的な行政措置が、自然保護、景観保護の利害を侵害する場合には、連邦自然保護法に基づいて承認された団体は、予め当該行政措置にかかわる行政手続で協働権を行使していた場合（意見や異議申立をしていた場合）には、団体「自身の権利を侵害されるとの主張」をすることなしに行政裁判所法による権利保障を求めることができると定めた。
　　　　　この団体訴訟導入をめぐる議論で問題となったことは次のようなことであった
　　　　　ドイツ基本法一九条四項は「何人も、公権力によって自己の権利を侵害されたときは、出訴の途が開かれている」とし、行政裁判所法四二条二項は、訴えが認められるのは、原告が行政行為によって「自己の権利を侵害されたと主張する場合」のみであると定めている。そこで、右両ラントの団体訴訟導入は、主観的な権利・利益の救済を越えて、団体が「自己の権利侵害を主張することなく」訴えを提起できるとすることは基本法等に抵触するのではないかが問題になった。
　　　　　しかし、ラント立法者は、基本法との関連でｗC基本法の規定は、その事項に関して最低限の保障を定めているのであって、個別法によょCより広い権利保障を否定するものではないとし、行政裁判所法との関連では、主観的権利保障を補い、効率的な行政法上のコントロールのために団体訴訟は必要であると反論している。
　　　　　ついで、この団体訴訟の行政訴訟論での位置づけが問題になった。
　　　　　これについての一つ立場は、団体訴訟はその構成員の共同の利益である集団利益を追求しており、定款（規約）で、集団利益の保護が団体の目的とされ、その集団利益が法の保護する利益であれば、団体が原告適格を有するとしても伝統的な主観的権利救済体系に反するものではないという考え方である。他方、現在の行政庁による環境法の適用、具体化について欠陥や脆弱性があり、行政訴訟や行政手続も右の欠陥を是正するには十分ではなく、むしろ環境保護の領域においては、新たな考え方を導入すべきで、法政策的必要性から団体訴訟を認めたものとみる考え方もある。
　　　　　このように、ドイツにでも環境保護訴訟において団体の原告適格が次第に拡大されつつある（参考資料、伊刀�叩屮疋ぅ掴∨�共和国における環境保護と団体訴訟（一）」民商八三巻二号、「同（二・完）」同三号。木藤伸一朗「環境行政訴訟における団体の原告適格論ー西ドイツにおける展開の一考察」立命館法学一九八五年四号）。
　二　団体の原告適格
　　　１　団体の原告適格を必要とする背景
　　　　　以上の外国例などからわかるように、団体に当事者適格を認めるべき必要性は次のように整理できる。
　　　　�　ヾ超�保護に責任を持つ行政庁が、十分にその責任を果たしていない状態があること（「執行の欠陥」）。
　　　　　・その原因は、制定法の文言が一般的、かつ、抽象的でそのために具体的な事案について行政庁が環境保護のための規制をためらう。
　　　　　・ある課題についての環境保護のために規制を実施する権限がいくつかの行政庁に分散されていることから、行政庁相互の牽制が働き十分な規制が実施されない。
　　　　　・特定事案について規制を実施するにあたっては、開発によって得られる利益と環境が破壊されることによる不利益とを総合的に考慮しなければならないが、実際には諸利益の十分な比較考量がされず、時々の政治的配慮などを優先した短期的な視野から行政の決定がなされることが多いこと。
　�◆々埓�手続や司法手続きへの参加が保障されるべきこと。
　　　　　　行政組織への団体の参加は、手続の合理性を高め、ひいては現在の代表民主制の欠点を補うことになる。団体訴訟もこのような機能を果たしている行政手続への団体参加の延長線上に位置づけることができる。
　　　　��　個人による訴訟追行に限界があること。
　　　　　　伝統的な訴訟観のもとでは、特定の行政処分によって不利益を受ける者が行政訴訟の原告適格を認められるとされてきた。しかし、この立場では、実際の環境侵害を防止できない。
　　　　　・ある行政庁の行為が、国民全体の視野からみた環境保護の不利益を及ぼすが、個人個人の市民にとっては、特定の不利益をもたらさないことがある。たとえば、自然保護地域の指定を一部解除しても、通常の場合には一般の市民にとって不利益は生じない。このよう場合、特定の市民が原告になって、当該処分を争う可能性は期待できない。
　　　　　・市民個人に対する不利益が、ある行政庁の行為によって発生しているが、それが潜在的であるために、市民個人が訴えを提起することを期待できない場合がある（たとえば、原子力利用施設での事故による
　　　　　被害発生の潜在的危険性など）。
　　　　　・個人的不利益を受ける市民が訴えを提起することは期待できるが、その不利益を引き起こす行政庁の行為が、より広い範囲に影響を与える場合がある。たとえば、大規模な開発行為に認可が与えられた場合、計画の中心地域に含まれる特定地域に居住する市民に原告適格が発生することは当然であるが、その市民が開発計画全体を争うことは期待できない。
　　　　　・個人原告には、複雑な主張・立証活動を含む環境保護訴訟では、個人による資金準備、情報収集等に限界があり、当該訴訟を十分に追行することを期待しにくい。
　　　２　団体に原告適格を認めることに対する反対論とその批判
　　　　　他方、団体に当事者適格を認めることに対しては反対論がある。反対論の内容とそれに対する批判反論は次のとおりである。
　　　　�　ヾ超�保護団体による訴訟は、効率的な行政に対する障害となる。
　　　　　　この反対論は、「公益」の実現は、本来行政庁が議会の監督下に行うものであって、「公益」の実現に向かって活動するかどうかについて、何らの保証がない私的団体である環境保護団体に委ねられるべきものではないとする。
　　　　　　しかし、環境保護にかかわる「公益」実現の第一次的責任が行政庁にあるとしても、それを環境保護団体が分担することには何らの矛盾はない。むしろ、原告適格を認めれらることになる環境保護団体は、ほとんどの場合、事前の行政手続に参加し、その段階で様々な資料、情報を提供し、意見を述べることによって、行政庁の判断に協力し、行政庁の判断内容自体も適正で豊富なものとなる。
　　　　�◆仝朕妖�不利益を基礎として原告適格を認めている行政事件訴訟法に反する。
　　　　　　しかし、環境問題に関する紛争で問題になっている「公益」は、各市民の「私益」と切り離された別個の利益ではない。環境保護で問題になっている私益と公益とは、質的に異なるものではない。
　　　　　　すなわち、ある環境侵害が特定の市民に集中すれば私益の侵害として現れる（たとえば日照権など）。また、騒音や大気汚染の場合には、不利益を受ける市民の範囲が拡大することになり、この場合には、たとえば騒音発生源の近隣に居住したり、大気汚染濃度度が高い地域に居住する市民などは特別に強く不利益を蒙る特定の市民となるが、他の不特定多数の市民の不利益も存在する。そして、たとえば自然保護地域の保全などでは、環境侵害は、不特定多数の市民の利益のみにかかわることになる。しかし、このような居住・生活環境・自然環境にかかわる利益は、不特定多数の市民といえども関係市民に共通した利害関係が生じており、かつ、その当該地域に関する利益は、個々の市民の利益とは無関係ではないが、しかし、個々の市民の利益の総和としては量れない（定量化できない）利益、あるいは総和を超える利益と見るべきものである。
　　　　　　このように環境保護の領域で問題となる侵害利益については、公益と私益との区別は段階的なものであって、絶対的なものではない。したがって、たとえ私的な環境保護団体であっても、この不特定多数の市民の利益を保護しうるものであれば、原告適格を与え、訴訟という手段を通じてこの利益を図らせた方が合理的である。
　　　　��　真に「公益」追求を目的とする理想的な環境保護団体を原告として選ぶことはできない。
　　　　　　環境保護団体は、原告適格を認められることによって、行政庁を監督するとの立場を利用して、理由のない訴えを提起することによって行政手続を遅らせ、それを材料にして行政庁と有利な取引をするといった行動に出る可能性がある。
　　　　　　しかし、環境保護団体など多くの団体は、すでにその目的にそった活動を展開しており、その活動の実績と社会の中で果たす機能については評価されており、信頼するに足りるものとなっている（前記のＮＰＯ法の成立など）。
　　　　　　また、ある団体が、環境保護以外の目的の下に訴訟を提起し、行政を混乱させるという可能性については、一定の要件の下に原告適格を認めることで対応しうる。
　　　　�ぁ〜幣戮旅真紊鬚茲咫∈枷十蠅良蘆瓦�増える。
　　　　　　この主張の骨子は、原告適格をもつ環境保護団体が多数存在し、これらの団体が積極的な訴訟を起こす、また、団体による訴訟の結果は、市民個人による訴訟に対して法律上の効力を有しないから、団体訴訟と個人原告訴訟が併存し、訴訟数が増加し、裁判所の負担が大きくなるというにある。
　　　　　　しかし、すでに団体の当事者適格を認めているスイス、アメリカ、ドイツでも団体による訴訟数の顕著な増加はない。むしろ、環境保護団体は、その専門的知識や経験にもとづいて、本案に理由があり勝訴の見込みがある事件だけを選んで提訴するから、提訴数は減少し、真の争点を含む事件のみが残る。また、訴訟の前段階で、環境保護団体が行政手続に参加することによって、多くの論点が行政手続の中に反映され解決されて、実際には訴訟として残る紛争は減少する。
　　　　　　また、環境保護訴訟では、仮に原告が勝訴しても金銭的利益は期待できない。しかも、訴訟追行の過程では、訴訟資料の収集、訴訟準備などに莫大な労力と費用がかかるが、このような現実の訴訟経済を考えれば、団体が理由もなく訴訟提起を乱発するとの批判は空想論である。
　　　　　　さらに、団体に原告適格を認めたとしても個人としての市民が別途に訴訟を提起する機会が失われるわけではないが、すでに団体が訴訟を提起している事件について、市民個人が重ねて訴えを提起する可能性は、行政訴訟事件の出訴期間制限、環境保護訴訟提起の目的、訴訟経済的観点などから見てその可能性は低い。
　　　３　団体の原告適格を認める要件
　わが国の判例による団体の原告適格否定の理由とその批判
　　　　　前記のとおり、わが国の伝統的原告適格論でも、団体の原告適格が一切認められないわけではなく、理論的にみて「団体固有の法律上の利益侵害が認められる場合」には原告適格を肯定する余地を残している。しかい、前記のとおりわが国の先例は、左記の理由で団体の原告適格を否定している。以下に、団体の原告適格否定の理由を整理し、検討する。
　　　　�　ー�然人とは異なって何らの生理的機能を持たない団体である原告は、居住環境の保護による利益を自ら直接享受することのできる主体ではない。
　　　　　　確かに、団体は、自然人と異なり、一定の社会的必要性ないし有用性からその存在が肯定されるものであって、その存在目的、組織構成、組織の意思決定、外部に対する意思表明などいずれも所与のものではない。また団体自身は、自然環境による影響を直接、間接に感受することができる生理的機能を有しない。団体の存在自体を認めうるのは、外形的に認識しうる文書や活動を通じてのみである。
　　　　　　しかし、かかる団体は、「決して擬制されたものではない」、「個人以外に、これと同様に、一個の社会的作用を担当することによっｒ�権利能力の主体たるに適する社会的価値を有するものである」（我妻栄「新訂民法総論」一二二ないし一二六頁）。すなわち、団体は、その社会的活動を担当するがゆえに認められる社会的価値をその法的存在の基盤とし実存する（実存説）のであり、個々の団体の活動の内容やそれが果たしている社会的価値、機能をふまえることなく形式的に擬制されたもの、生理的機能を持たないものと捉えるべきものではない。
　　　　　　団体に原告適格を認めるか否かは、生理的機能の有無といった形式的な根拠ではなく、前記のような現代型紛争を射程距離にいれたうえで、原告になろうとする者が有する実体法利益と、訴訟の当事者資格を認める要件としての訴えの利益とは別個の観点からの検討が必要である。
　　　　　　具体的には、団体の目的実現にむけた訴訟前及び訴訟提起後の活動に見られる団体の情報収集・交渉能力、運動継続をささえる財政的基盤の存在、団体自治による構成員間の利害調整機能などを具体的事案に即して判断することになる。このような団体が有している利益を評価することは、団体が個々人の利益の単純総量を越えた利益を実現している現実を直視することでもある。
　　　　　　このような環境紛争などにおいて団体が有する利益とそれが社会及び紛争の司法的解決手続において果たしている機能、価値は、それ自体個人では実現できないものであり、このことはこれまでに積み上げてこられた実務経験から見て公知の事実である。
　　　　　　すなわち、現代型の自然環境をめぐる紛争において果たす団体の役割や機能を直視すれば、団体の原告適格を認めることは、訴訟手続の適正な運用、効率の観点からみても、訴訟の前後を通じた全体としての紛争解決の観点からみても望ましいものと評価されなければならない。
　　　　�◆‥�該団体が掲げる目的にそわない事態が発生することによって、直ちに当該団体の結成の目的が阻害されたり、存立の根拠が失われるとは解されず、また、そのような事態の発生それ自体が団体である原告ら固有の権利ないし法律上の利益の侵害に当たるとは認めがたい。
　　　　　　この点については、かねてより「法律上保護された利益説」と「法律上保護に値する利益説」との論争があり、この点についての原告らの主張は本書面第一部で整理したとおりである。
　　　　　　この問題を団体の当事者適格との観点から見ると、ここでの最大の問題は、現代の行政活動や企業活動が、その直接の相手方である個々住民を越えて広範囲にかつ多様な環境要素に影響を及ぼしており、この場合、そのような影響行為によって侵害される団体構成員個々の利益侵害でみるかぎり、それが原告適格を認めるほどには重大と認められないものの、地域全体からみて、あるいは影響を受ける利益（必ずしも個人に排他的には帰属しない文化的・歴史的価値が不可逆的に失われる場合）からみて、その影響・侵害が無視できないこととなる場合の争訟性を奪う結果となることへの法的な対応いかんにある。
　　　　　　この点、既存の判例は、構成員の個別的利益を集約し統合したものとして認識されるべき団体の利益を、構成員個々人の利益に分解してとらえている。しかし、この解釈は団体の社会的存在とその社会的価値・機能を否定するものであって誤っている。
　　　　　　また、団体の「法律上保護された利益」については、実体法的利益のみならず、団体が有し、かつ、果たしている訴訟の前後を通じた紛争解決に向けた手続法的利益の有無の認定評価が必要である。
　　　　��　当該団体が、団体固有の権利または法的に保護された利益が侵害されることを主張・立証しなければならない。
　　　　　　団体が紛争解決上の利益（訴訟的・手続的利益）によらず、その実体法利益のみをその固有の利益として特定し主張することを団体適格の要件とすることは、前記�　↓△忙愿Δ靴燭箸�り形式論にすぎず、司法による紛争解決機能を軽視し、ないしは訴訟の前後を通じた団体の紛争解決機能とそれについて団体が有している紛争解決に向けた利益、団体の目的である自然環境、生活環境等の環境利益実現に向けた利益を無視するものである。
　　　　　　「社会生活において一個の作用を担当する団体が、そのために独立の存在を認められるのが法人である、とする以上、その能力の範囲もまた、この社会的作用を標準として決定しなければならないことは、いうまでも」（我妻栄前同一五四頁）ないことである。
　　　　　　実際、多くの団体は、その構成員の共同の利益である集団的利益を有し、その存在目的として規約に集団的利益の保護（例えば、自然環境を保護する利益）を定め、その追求に向けた活動をする。そして、団体は集団的利益の実現に向け、構成員の情報、知識、行動力を基礎としながらも、意見交換・討論を通じてそれらを組織され統一された行動方針へと集約し、行動を行い、さらにその結果、成果を新たな行動方針への繰り込んでいくといった継続性を有しているのである。
　　　　　　このように、実際の団体が、その目標の実現向けた社会的活動するとき、その能力の範囲もまた、この社会的作用を標準として決定しなければならないものである。
　　　　　　この点、本件訴訟では、個人としての原告については、天然記念物、絶滅危惧種そしてそれらが生息する自然生態系と各原告らの関わりのなかで、環境ネットワーク奄美の会員である本件原告個人及びその他の会員が有する文化的、歴史的価値の保存、フィールドワークを通じた観察者や研究者としての法的価値が侵害されるとし、団体としての環境ネットワーク奄美は、そのような会員個人の利益を束ねるとともに、各会員個人利益の集積を越えた環境ネットワーク奄美という団体それ自体が社会的存在として奄美全体の自然生態系保護利益を具現しているものであって、かかる利益が侵害され、あるいは侵害の蓋然性がある場合には、団体としての環境ネットワーク奄美自体の利益侵害ないしはその蓋然性があるものとして本件紛争解決のために原告適格を有すると解されるべきである。
　　　４　団体の原告適格を認める要件
　　　　　以上により、ある環境保護問題について、従来から不特定多数の市民の利益の保護に努めてきた団体は、訴訟という手段を通じた場合にも、その利益の実現を図るに適しており、そのような団体は当該事案について原告適格を認められるべきである。
　　　　　そこで、団体の原告適格を認める要件を整理すると以下の通りである。
　　　　�　｜賃里粒萋位榲�として環境保護を掲げていること。
　　　　�◆々柔�員の中に個人的不利益を受ける者が存在すること。
　　　　��　団体が現実に環境保護活動を実施していること。

第二　環境ネットワーク奄美の原告適格
　一、原告環境ネットワーク奄美の当事者能力
　　１、環境ネットワーク奄美の設立経過
　　　�　ヾ超�ネットワーク奄美は、左記のとおり権利能力なき社団であるが、その設立の経過は次のとおりである。
　　　　　平成二年八月ころ、奄美大島の海辺・海岸の自然保護を求める運動団体として「奄美の海辺を守る会」が結成され、同会は、その後「大和村ヒン浜」の護岸堤建設反対活動などを実施し、護岸堤建設工事の中止などの成果をあげた（甲一二六ないし一二八、一五九号証、薗博明尋問結果）。
　 そのころ、すでに奄美大島内には、前同会の外に「たつごう自然を守る会」、「奄美野鳥の会」、「奄美哺乳類研究会」等があり、それぞれ自然保護等を目的とした活動をしていた（甲一五九号証）が、奄美の自然保護等全般的な保護運動を適切かつ効果的に機動性をもって展開する趣旨から、平成七年一月二二日、右四つの団体の構成員の大半が個人加入して結成されたのが環境ネットワーク奄美である。
　　　�◆，靴燭�って、環境ネットワーク奄美が結成されたのは平成七年一月二二日であるが、同会はその構成員である前記四つの団体及び同四団体の構成がなしてきたそれ以前の自然保護運動を承継したものと評価すべきものである。
　２、目的
　　　　環境ネットワーク奄美は、奄美大島固有の自然を守るため、島の自然生態系の実態調査、保護施策の検討、自然生態系に有害な行為への対応、奄美の自然に関する学習教育活動、自然の権利の擁護、その他自然の保護に必要な一切の行為を行うことを目的として、平成七年一月二二日、原始会員八名で結成された権利能力なき社団である（甲一〜三、）。
　３、構成員
　　　維持会員（年会費五〇〇〇円）及び一般会員（年会費一〇〇〇円）によって構成される。維持会員は、同原告の運営に全責任を持ち、同原告の財産を総有する。一般会員は、同原告の目的に賛同して、会費を支払えばよい。平成七年九月三日現在、維持会員八名、一般会員二〇八名である。
　　４、組織
　　　最高意思決定機関として、維持会員総会があり、運営委員会（維持会員の中から総会により選出し、日常業務を決する）が年一回の定期総会の他、必要と認めるときは、いつでも臨時総会を招集することができる。定期総会では、運営委員会の報告・提案を受けて、当該年度の活動及び次年度の活動方針の承認、当該年度の決算及び次年度の予算の承認を決議しなければならない。代表者は、総会及び運営委員会を主宰する。
　　　　なお、会は活動の本拠を会の「代表」社である薗博明の自宅所在地である名瀬市長浜二五ー五に置いている（甲四号証の「あまん」タイトル名下の発行者での記載）。
　　５、財政
　　　維持会員（年会費五〇〇〇円）及び一般会員（年会費一〇〇〇円）のほか運動賛同者からの寄付金によって独立の会計として管理されまかなわれており、毎年度開催される「シマの環境を考える会」の総会で収支決算報告をなし承認を得てきている（甲一、一三〇、一三一号証）。
　　６、活動
　　　定款には、行政不服審査、訴訟等の活動、調査、保護活動、立木トラスト、啓発、教育活動、広報活動等としての機関誌「あまん」の発行、自然保護活動、事業活動等を定めているが、これにもとづき機関紙「あまん」（甲四、五、一二九ないし一三一号証等）、情報提供パンフレット（甲一五八号証）を発行しているほか、本件訴訟、環境保護活動（甲六の一、二、七、八、一三二ないし一四七）、徳之島調査等の周辺諸島の自然保護活動、自然観察、自然教育への講師派遣、新聞・雑誌等への投稿など様々な活動を行っている（甲九、一〇、一二五、一四八ないし一五七、一五九号証）。
　７、以上のとおり、環境ネットワーク奄美は、原告として取消訴訟等を提起しているが、これは、権利能力なき社団として、本訴を提起したものであるところ民事訴訟法二九条における「法人格なき社団で代表者の定めのあるもの」に該当し、訴訟法上の当事者能力を有する団体である。
　二、環境ネットワーク奄美の原告適格性
　　１　前記のとおり、左記の要件を満たす環境保護団体については原告適格を認めるべきである。
　　　�　｜賃里粒萋位榲�として環境保護を掲げていること（目的要件）。
　　　�◆々柔�員の中に個人的不利益を受ける者が存在すること（構成員要件）。
　　　��　団体が現実に環境保護活動を実施していること（活動要件）。
　　２　目的要件充足
　　　　環境ネットワーク奄美の目的、構成員、組織、財政、活動は前記のとおりであり、その存在・活動目的として奄美大島及び周辺の自然環境の保護を掲げ、かつ、実際の活動からも環境ネットワーク奄美は、右目的に沿った活動を継続的に行っている。
　　　　したがって、環境ネットワーク奄美は、「団体の活動目的として環境保護を掲げていること」という目的要件をみたしている。
　　３　構成員要件の充足
　　　　環境ネットワーク奄美は、奄美大島という地域の自然保護を目的とし、ナチュラリスト、自然保護活動者並びにこれらの者を支援する人々から構成され、メンバーの居住地域は奄美大島に限定されない。
　　　　既に、第一部で主張したとおり、本件個人原告らは、本件各林地開発許可処分の取消、無効確認について原告適格を有する。
　　　　すなわち、本件個人原告らは、いずれも環境ネットワーク奄美の会員であり、かつ、本件各林地開発許可処分によって、具体的、個別的に特定しうる不利益を受ける者である。
　　　　したがって、環境ネットワーク奄美は、「構成員の中に個人的不利益を受ける者が存在すること」という構成員要件をみたしている。
　　４　活動要件
　　　�　ヾ超�保護団体としての活動
　　　　　環境ネットワーク奄美は、地域の自然に関し綿密なフィールドワークを継続的に行っており、その構成員である会員個々の活動を通じ、あるいは会員の総意にもとづく集会、研究会、調査活動等独自の活動を通じて、直接・間接に研究者や専門的行政機関への重要なインフォーマントとしての役割を果たしている。そして、地域に根ざした政策提言、広報、環境教育を行っている。また、機関誌の出版等を通じ、当該地域の生態系・生物種やその人文との関わりなどについて関心を有する人々に情報を公開し、多くの人々の意見を討議過程へと統合する役割を果たしている。
　　　　　また、従前、行政に対して何度も積極的に自然保護について提言し、近年は行政からも意見を求められることも多い。さらに、国内の環境ＮＧＯとの意見交換や情報交換を行い、これを通じて、生物多様性とその保全に関する情報に接し、より視野の広い保全活動を行うことを企図しており、また、これらの活動を行うための裏付けとなる必要な資金をも有している。
　　　　　したがって、環境ネットワーク奄美は、奄美の自然にかかわる環境行政訴訟を提起するに十分な能力と真摯な動機を有しいることが認められる（甲一二五、一五九号証等）。
　　　�◆）楫鑪喘漏�発許可処分対象地の自然保護に関する活動
　　　　　環境ネットワーク奄美は、右のような活動の一環として、本件市理原、市崎におけるゴルフ場開発を目的とした本件林地開発許可処分手続、これに関連した文化財保護法の許可処分手続等に関連し、本件訴訟の提起以前から具体的な調査、研究、情報提供、意見交換、意見表明、集会、文書活動などを行い、本件訴訟提起後も引き続き同様の活動を実施してきている。
　　　　　したがって、環境ネットワーク奄美は、具体的な本件各林地開発許可処分及びその対象地に関連する自然保護活動を具体的に実施している団体であって、「団体が現実に環境保護活動を実施していること（活動要件）」を充足している。
　　５　以上のとおり、環境ネットワーク奄美は、本件林地開発許可処分及びその対象地域の自然環境保護との関係性を特定しうる団体であり、その個々の構成員が有する環境に関する利益を代弁または集約する他、構成員個々の利益を束ね、統合した団体としての利益をも守ることを目的として、その関与の仕方、運動の内容からみて深い関わりを維持しつつ、真摯に（真摯性、非利己性、他益性、継続性等）活動を行っており、そのような活動によって守ろうとする利益は、本件林地開発許可処分に関連する法規が保護する法的価値に合致し、あるいは寄与するものである。
　　　　まさに、環境ネットワーク奄美は、本件林地開発許可処分によって侵害される法益乃至価値の防衛者としての能力を持ち、その防衛行動に真摯な目的・動機が有し、具体的にその対象地の自然環境保護活動を行っている団体であって本件訴訟につき原告適格を肯認されるべき団体である。
以　上


［トップページへ戻る］